今年もまた、あの花が咲く。
山々に囲われた道をひた走ること、10分。
まみえた青に、思わず目を細めた。
「これが・・・ヘブンリーブルー・・・」
醒める様な青だ、と思った。まるでこの世のものでは無い様な。
青々青とした、朝顔の花。
「そ、ヘブンリーブルー。最近はやってきたヤツ」
運転席で、あの人が言った。眩しいばかりの陽光に、その金髪が余計に眩しく感じた。
サングラス越しに私を見つめて、笑う。
「来てよかった?」
「うん」
「そ」
車を止めてもらい。しばしその花を観賞する。
まるで空をこのまま持ち出したようだ。あおあおあお。視界が染まる。
「でも天国にこの青はないわよね」
「死んだことないし、分かんない」
「そうね」
あの人がそっと、右手を握りしめた。応えるように私はそっと加減して握り返して、優しく微笑む。
「ねえ」
「なん」
「私がいなくなったら、一度だけこの花を添えてね。天国に持っていくから」
「ばか、置いてくな」
「先に逝くだけよ」
「それでも、やだ」
「一緒には行けないわ。あなたが好きだから」
「ならよけい」
想いが堰を切ってあふれ出して、涙になる。握っていた手をそのままに、互いが互いを抱きしめあった。
嗚呼、何て暖かさだろう。この愛に最後まで見守られるなら、私はきっと幸せだ。
「俺も、連れてけよ。一緒に殺して」
「だめよ。これは必然だもの。」
「お前、残酷だな。俺を苦しめて」
胸の中で見上げれば、彼の顔はほぼ泣きかけていた。サングラス越しでも分かるくらい、切なそうに顔を歪めて、目を潤ませている。
「好きよ。好き以上に、愛してる」
「今そのセリフを言うのか」
「もう言えなくなるもの」
「愛してる・・・それ以上に、お前を」
愛してる。
2人重ねたキスを、今も忘れない。
(やっぱり天上に青はなかったわ、愛しい人。)