貴女に逢えた、それだけが私の救いだった。
私の世界を、光で満たしてくれた。







「姫」

うららかな日差しが差し込む、この城の庭園はとても心地が良い。
木々は揺れ、時に訪れた鳥たちが戯れにさえずる。
そんな彼らが最も良く鳴く大樹の下、ベンチに座りの表紙の書物にふける少女を 、私は穏やかな眼差しで見つめた。

「姫」

再度呼びかけてようやく気がついたのか、少女がハッとしたように面を上げた。
そして私を視界に捉えて、その大きな瞳を嬉しそうに細めて笑う。

「貴方は私を見つけるのが巧いわ」

「ご冗談を」

貴女は隠れていないし、何時も此処にいるでしょう?

そう言って苦笑すれば、適わないわ、となお笑いながら書物を閉じた。
「此処は穏やかですもの」

外とは違って。

消えた後半を汲み取って、私は彼女を見つめた。
国が国を力と権力で奪い合うご時世。
外は長引く戦が民衆を脅かしており、彼女は少なからずその事に心痛めていた。
お優しいのだ。基本的に、この方は。

「戦は奪うだけだというのに、何故大人は理解しないのでしょうね」

「皆貴女ほど聡明では無いのですよ…愚かな事に気づかぬ」

「その愚かさに気がつくのは、遠そうね。それまで果たしてこの身は生き延びるのかしら」

ふぅ、と憂いを漂わせたお顔は愛らしさを残している。
すっ、とその身の下に膝をつき、彼女を見上げる。

「お守り致します」

貴女を。

彼女はそうね、と頷いて微笑んだ。

「私のナイト」

見下ろす瞳はどこまでも穏やかな光に満ちている。
この光に、私は救われた。


「貴女が望むのなら、この身などいくらでも差し出しましょう」

そっと、膝に置かれていた手を取る。ひんやりとした女性特有の細い手は、恐ろしいほどに頼りない。

「私が滅びるその時まで、そばに居て」


「言わずとも」


続く、沈黙。


やがて彼女から先に耐えきれずにため息と共にかすれた声を漏らした。

「酷いわね…」

「何故…」


瞳が耐えきれずに哀切に染まっていくのが分かる。


「知って、いるくせに」

胸に刺さるような声だった。
心の中で目を閉じ、そして開く。


「それが貴女を落としめるものだとは、知っております」

「…構わない、と言っても?」

ザァァァァ。

風が二人を凪いで通り過ぎた。


「…聞かなかったことにしておきます」

彼女がグッと唇を噛みしめたのが分かった。

「ただ」

痛み始めた心に鞭打って、彼女を改めて真正面から見つめる。
ベイビーブルーの瞳を。
愛する人を。
主を。


「この身は魂まで、御身のもの。滅びのその時一瞬も、貴女と共に」


貴女に降りかかる全ての盾になりましょう。
どんな火の粉も振り払いましょう。

貴女は私の光。

私の世界を満たしてくれた、唯一の光。

貴女が望むままにすることはこの身は叶わぬ。

されど貴女の騎士として。

貴女を愛する、1人の男として。







(想いの叶わぬ世界、だから貴女を守り付き従うと決めた)