君はなぜ歌うの?
スケブに書かれたその文字が、やけに無秩序だったのを覚えてる。
僕は誰の視界にもとまらずに、それでもただ歌を愛していた。





彼女は肩までのきっちりとしたショートカットで、ちっちゃな目が白い卵みたいな顔にちょこんと乗っていた。
ぼーっとしたような瞳の奥に、ちっちゃくちっちゃく僕を映していた。
そして彼女は文字でこう語ったのだった。

あたしは自分から音を亡くす為に自分の声を潰した

なんで、とそう、まずはそう聞いたんだった。
彼女はまた書いて語る。
何でだろう・・・今はもう覚えていない。ただ自分から音を亡くしたかった。自分の音を聞きたくなかった。

「音は、無くせた?」

うん。周りの音ばかりが目障りにでも映る#゙女は寂しそうに語った。

「僕には、わからない。君の行為が、分からない」

君は、歌を愛してる

「君は愛してないの」

ううん、愛してる
彼女はふわりと柔らかに微笑んだ。
「何故!」
僕は声を少しだけ荒げた。

うん・・・・・私は・・・・・・・・・・・・味わった絶望が大きすぎた。その絶望をどうしても消したかった・・・・
そうして彼女は、一筋の涙を流して空を見上げた。


そうして彼女は、じゃあねと書いて去っていった。



僕は歌を愛してる。
どんな時でも歌を感じたくて、僕はこの喉を震わせるんだ。
だけど彼女は違っていた。
愛よりもずっと絶望を強く感じてしまって、その哀しみから自分を殺した。
彼女はそれからずっと無≠感じているのだと言う。
それが失った声だったからなのか、それとも別の何かなのかは分からないと言う。

いつも私の意識は、ずっと宙を飛んでいる。
肉体は常に地に生きている。
同時に二つの世界を、私は生きている。



そんな私を、私は死ぬまで守っていこうと思う。
私は死ぬまで、そんな自分を限りなく見守って、愛していこうと思う。





声を亡くしたカナリヤは

[The canary which lost voice]