これが夢なら、現実の私はきっと死んでる。 夜も眠らない町であの人に会ったのは偶然だった。 道端に座り込み、明日とも知れない明日にただ絶望しながら、己の不運を呪いながら絶望しながら時間が過ぎるのを待っていた。 家がなかったわけではない。ただ寂しかった。それがこのネオンサイトの下にいればマシになる気がしたから。 そのネオンをふと見上げたその瞬間、眩しい光をバックにしてあの人は私の目をまっすぐに見つめていたのだった。 「・・・・・・・来るか」 そして一言そう言った。 その意味を理解していた私は、驚愕に目を見開いて彼を見つめた。なぜ、と。彼はふ、とニヒルな笑みを口角に浮かべたのだった。 「・・・・・・拾ってやる」 分からない。分からないけど私は、その手を取っていた。 その瞬間の暖かさを忘れた事など一度も無い。 身体目的かと思えば、彼は私に一度も手を出そうとしなかった。あまり喋らず、語らず、私はそれでも雰囲気で彼を察していた。 その音のない世界が初めて、彼といて初めて心地よいと、そう感じられるようになった。 彼は不器用ながらも、それでも時に私の心配をし、熱を出した私を気遣い、時にオシャレを楽しむようにとショッピングのお供をしてくれた。 その不器用さが嬉しかった。その心が嬉しかった。 見えない本音がそして哀しくもあったけれど、私は口には出さない事にした。 彼の本当の姿を知ったのは半年後のホテルの中のTVの箱だった。 彼は追われていた。人を殺した咎で。それは何人も殺した罪で。 「・・・・・見たな」 ハッとなって、後を向いた。戸口にたたずむ彼の瞳は、冷たくも悲しげだった。 「通報、するか」 静かに歩見よってくる彼にベッドの上の私は動く事すらできない。 そして首を振る。そんな気はサラサラなかった。私の心がそう叫んでいた。 彼はベッドにあがりこむと、私の髪をすくい上げ、それに口付けながらこちらを見つめた。 「何故・・だ」 私は考えた。でもすぐに答えは出た。まるでそれしか用意されていなかったかのように。 「好き」 私の。 私の世界が、彼のチャコールグレイの髪にそまる。 気がつけば彼は放物線を描くように私を押し倒したまま、私を抱きしめていた。 首筋が冷たい。 そして静かに聴こえてきたのは、彼の唸るような嗚咽だった。 「連れてくるんじゃなかったっ・・」 一瞬心がちくん、と痛んだ。 でも次の言葉に、切なくて涙が零れた。 愛するんじゃなかった。 そうすれば、お前を巻き込まなかった。 でも好きだ。どうしても好きだ。どうしてもどうしても愛してしまう。 彼は嗚咽したまま吐き出すように叫んでいた。 「離れないでくれっ・・・どうか・・・・俺から逃げないでっ・・」 こんな俺でも、愛してほしい・・・・ 引き剥がされて、見つめた彼の瞳に溜まる水は間接照明で光っていた。 私は上半身を引き起こし、彼の瞳のフロスティブルーの涙をそっと口に含んだ。 「逃げないわ」 貴方から、逃げない。 それは私の意志。 何処までも2人でいるから。 貴方が良いと言うまで、私は傍に居るから。 そして私は彼の侵入を許した。 恍惚と哀しみと切なさの入り混じった時間を過ごして、さらに思った。 「明日なんて、来なければいい・・・・・」 貴方が捕まる時間が一生来なければいい。 そう思う私は、「貴方」と言う名の罪に溺れている気がした。 |