「愛している」 お兄様の口癖。 「僕のお姫さま」 小さなころからの、お兄様の口癖。 私の頭を撫でながら、にっこりとほほ笑むその瞳がたまらなく好きで、その瞳が堪らなく愛おしくなっていくのにそう時間はかからなかった。 私がお兄様と出会ったのは、もう少女と呼ばれるのもむつかしくなってきた年の春。 広く美しい庭を背にし、そよそよと柔らかな風が当たって気持ちよい、穏やかなあの日。 緊張に身体を固くし、椅子に身をちぢこませていた私は遠くからくる足音に眼を丸くしたのを覚えている。思わず人形のように立ち上がり、足音の方をひたとみつめる私。 そして扉が開き、その人が顔を見せる。 瞳が、私を見つめていた。 灰色の瞳が揺らいで、私を見つめ返していた。 鼻筋の通った、端正な顔立ちが見えた。瞬間に揺れる髪が風にあおられてそよぎ、肩に落ちた。 にこりと微笑んだのち、彼は私を呼んだ。 「僕のおひめさま」 会いたかった。 ********************* 薄暗がりの中で、私は瞳を開ける。 酷く頭がぼんやりして、苦しい。ああ、今のは夢・・・・ お兄様は・・・・ 赤ん坊は、どうしただろうか。私のせいで小さな身体でこの世に誕生させてしまった。 悔やんでも悔やみきれない。かわいそうなわが子・・・ 私はもう長くないと知れる。あの子だけはせめて生きながらえて欲しいものだが・・ お兄様。 私はどうして貴方の妹としてこの世に誕生したのでしょう。 私は貴方の妹でした。 貴方の政治の道具でした。 でも私はあの時から、貴方が好きでした。 焦がれる想いは貴方の出世を手助けするため、貴方が笑うために封じ込めました。 私はけして良い妹ではありませんでしたが、貴方は私の体調が悪い時、わざわざ変装までして私の元にやってきてくれましたね。うれしかった。 でももういいのです。 この世界はもう終わりなのでしょう。この世界にもうお兄様はいらっしゃらないのですから。 お兄様がいない世界など、もう終わるのかと思うと少し安心いたします。 お兄様。 それでもお兄様と過ごしたこの世界は、楽しかったです・・・ |