[10 最後の選択]
(orignal)
「ダンスがお上手なのね」
私など到底、適わないわ。
ダンス終わり、そう言って穏やかに微笑んだ彼女のその顔が好きでたまらなくなった。
最初は仮面舞踏会でのこと。
その次は都市部での寂れたpabで、彼女は貧困に身をやつしていた。
スリットの入った黒のミニドレスが彼女の白い肌にまるで吸い付くように映え、唇には夜闇に目立つように朱が塗られ、
酒によって瞳はくすんだものになっていた。
彼女はあの時のことを思い出してダンスのお上手な人?、と儚げに笑った。
「私は変わってしまったわ」
彼女の父の逝去により一族は没落の一途を辿って行った。
家は売却され、財産は直ぐにそこをつく。残った温室育ちの彼女が唯一売れるのが、自分自身の身体だった。
「あの時が一番楽しかったっ・・・・・・」
涙が美しい頬を伝った。
思い出は思い出すことしか出来ない。
どうする事もかなわない。
「貴方は何も変わらないのね」
あの時のままだわ。
一体どうして?
私はこんなに時間を進めているというのに。
―俺は時間を止めた者、だからだよ。
「その時間は動かないの?」
―永久に、止まったままなのだ。
「そこは、暗い?」
―とは?
「私の立っている場所も、とても暗いから。貴方が居る場所も暗いのではないかと思って」
―暗い、な。夜闇よりも、黒が、闇が支配する。俺はどこにもいけない。
「似た者同士なのね、私達」
それから度々、そのpabで彼女と飲み交わした。
言葉は少なげだったが、数少ない会話の度に愛情が芽生えていくのは必然とも思えた。
彼女は俺を愛した。
俺も彼女を愛した。
でも俺は、彼女とともには生きられない。
俺の時間は、悪魔によって奪われているから。
俺は立ち止まったまま、彼女ばかりが進んでいく。
そのことが、この胸に積もる愛と共に俺を苦しめていくのだった。
―冷たい彼女の指先をそっと絡め取る。
裸の彼女の胸に耳を寄せれば、温かい心の臓の音と流れる血の音がした。
ああ飲み干したい飲み干したい愛しい飲み干したい愛しい愛しい!!!
彼女と繋がる欲望とは別の意志を持つ欲の獣が頭をもたげて来る度に苦しい。
意識の中、必死にそれを押さえ込んでいる。
俺は彼女を愛している愛している愛している!殺すな奪うな殺さないでくれどうか!
幾度と無くそれを祈った事だろう。
悪魔に時間を奪われた自分が、汚れきったこの身が人の為に祈っていた!
「いいのよ」
その苦悩を知ってか知らずか、いつだって彼女は微笑む。
闇の中の私を照らす光のような微笑。
「貴方と・・・・同じ闇で生きたいわ・・・」
貴方が寂しく無い様に。自分が貴方を恋焦がれない様に。
―俺の欲望は・・・君を永久に闇に押し込めてしまう!
「私は・・・それを望んでいるのに」
―俺の闇は君が思う以上に深い。深いんだ・・・君をそこに連れてはいけない・・・・
まるで感染したウイルスだ。
じわじわ、じわじわと己の身体を蝕んでいた。
それは不覚にも強まってしまった、君への『愛』。
彼女は一緒に居てくれるといったが、悦びと哀しみだけがせめぎあっていた。
一緒にいて欲しい。彼女を愛している。
だがそれはいつまでも終わらぬ闇に彼女を浸し続ける事。そんな耐え難い事は気が狂いそうだ。
いつか彼女もその闇に疲れて泣き崩れてしまう。それだけは嫌だった。
愛している愛している愛している愛しい人!
それは叶わぬ、永久に持ち続ける想いとなるだろう。
苦しい苦しい苦しい!愛しているが故に苦しい!神よ、何故こうも俺を呪い続ける!
限界も、そこだった。
「うそ・・・・・」
彼女が見おろすのは、業火に焼かれ残骸となった俺の身体。
傍らには血濡れの文字。
REBORN MY LOVE AFIRE , I WANT TO MEET YOU ONCE AGAIN
TO WATCH OUR LIVE EXPIRE OLD WITH YOU A WONDERFUL DEAD
(愛しい人よ、叶うなら燃え尽き生まれ変わってもう一度巡り逢いたい
共に命果てるまで傍に居られたら なんて素晴らしい死であろう)
美しい頬に涙が伝う。
「直ぐにいくわ・・・もう迷わない」
今度こそ一緒に居ましょう?
(その夜路地で一つの炎と二つの魂が昇っていきました)
BGM→VAMPS 「SECRET IN MY HEART」
大変この曲を愛する1人です。
それ故かやたら長い・・・・
路地イメージは「クィーンオブヴァンパイア」の影響か。
Kurosakiの解釈はこんな感じですが、モノホンは宇宙と海底くらいの差があるくらい違うと思うのであしからず。
BACK?