6.


「いって!! 桝花! もう少し優しくしろ!」

「男に優しくする義理は蚤程もありません。ぴーぴー喚くなクソガキ」


桝花に消毒を受け、紅がいつもの倍以上飛び上がったのを見て真紅は吹き出しそうになるのを必死に堪えた。
むっとした桝花が包帯を巻き終わり、バチン!と音を立てて紅の背中を叩いて吐き捨てる。


「いくら我々が鬼で再生出来てもね、全くお前はいつも捨て身過ぎるのがいけない。
もしもそれで真紅が大怪我でもしたらどうするんです。少しは頭を使いなさいこの干物頭、どっかの脳ミソ筋肉といい勝負ですよ。
分かってますかこの能無しどクズ」

「お前のその口の悪さを保つ脳ミソもご遠慮願いてぇよ! ホント昔っから変わんねえな!」


最早悲鳴に近い紅の叫びを聞きながら、真紅は自分の向かいのソファに腰掛けていた熨斗目に笑いかけた。


「ホントごめんね熨斗目。貴方達の力を使わせちゃって。そんな苦戦もしないつもりだったけど、やっぱり難しかった」


いいさ、と熨斗目はカラカラと笑いながら足を組み代えてから真紅を優しげな眼差しで見返した。


「…気にすんな。俺達の力…もとい俺の力って半分非戦闘用だからな、たまには使ってやらねえと。まあ桝花は怒ってたが」


彼らアオの鬼飼いには『治癒』という特殊な能力が備わっている。
それはだれからも重宝されているが、その力はしかし鬼飼い自身の血を使う為、桝花は良しとしていないのだ。
いつも暴言ばかりでも、彼を思う思いはそこにあるのだと思う。


「…何だかんだで大事にしてるのよね、熨斗目を」

「莫迦言っちゃいけねぇ、あれの口の悪さに毎日付き合ってみろ? 流石のお前だってそうは言えなくなるぜ? 
この俺がこんなにしおらしくなっちまったんだからな」

「誰がしおらしいって? それこそ莫迦を言うなって話ですね」


話を聞いていたらしい桝花がハン、と鼻で笑って熨斗目を見た。


「しおらしいだろ!? ふざけんな!」

「虫唾が走る」

「ひでぇな!」

「おい真紅、お前から一言言ってくれよ! 俺らのこの扱いの酷さ!」

「真紅に甘言(かんげん)をたらしこもうとしないで下さい腐った男ども」

「真紅!」


いつもより賑やかなその光景を見て、真紅は一人クス、と声を上げて笑った。


「はいはい、みんな落ち着いてよ。今コンビニから買ってきたロールケーキ出すから食べよ」

「ああ真紅、あの二人のなんて結構ですよ、あれには泥水でもすすらせておけばいい。私達二人だけで楽しみましょう」

「ふざけんな!俺の金返せ!」

「ケーキ喰わせろ!」

「はいはい、皆の分あるからねー」



まあたまにはこんな賑やかな夜もいいのかもしれないわね。真紅はもう一度クスリと笑って、冷蔵庫に向かった。





了






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