風がさあさあと建物や木々を凪いで、肌に心地いい夜だった。
それにしてもすっかり遅くなってしまった。まったく何てことだ。
久しぶりの友人と会い、ゴハンを食べながらしばらく懐かしい話題に花を咲かせていた。 それでいつもあまり飲まない酒も今日は楽しく進んで、結局すっかり話し込んでしまった。
でもまあいいか。久しぶりで話せたし、飲んで食べて、今日はなんだか楽しかった。 そう思い、帰り道の途中にある公園に差し掛かる。
ちょっと木があって、ベンチがあっておしゃれな公園も、夜になるとまた違った雰囲気になる。 公園の真ん中にある噴水が夜の電灯にあたって水が反射してキラキラしてる。
キレイ。

しばらくそれに見惚れてから、帰ろう、と歩き出した。
背後にある気配にも気がつかずに。


ドガッ!!


後頭部に鋭い衝撃が走りぬけて、彼女はそのまま意識を失った。










人の気配を残さない廊下を、彼は1人歩いていた。
中年の、昔は端正であったろうその顔に相応しいしわが最近は少しずつ増えつつある。白髪もそうだ。ストレスのせいもあるだろう。この仕事は格差が大きい。下はその分胃腸炎に巡り会う危険性をはらんでいる。夜に負けたよりなげな蛍光灯がそれでもチカチカして目が痛い。 こらえて、廊下と同じように続く窓にそっと視線を移す。眠りの夜の中、窓の外の夜景が純粋にキラキラと無垢な輝きを放っている。
何も知らないとは良いことだ。
彼はため息をついた。

―つい先ほど下った宣告に、彼はすっかり打ちのめされていた。

“この事件…まだ糸口は見えてこないと?”

“いい加減マスコミがうるさい…いいネタだよ”

“手っ取り早く、能力者を使え”

“いや……ー”

彼はきっと喜ぶだろう。そうに違いない。なにせ久々の外の世界だろうから。
最近はめぼしい外の情報もなく酷く退屈していると、この間の面会で言っていた。
もう一方はどうだろうか。
最近増えつつある新人類、ニューカテゴリ。能力者もその1つだ。この刑事組織の中でもまれな、希少種のその子は、自身もまだ会ったことがない。 怒るのは確実だ。
自分だったら逃げ出す。

パラパラパラ…
立ち止まって、脇に抱えていた資料をめくり、1点のそれを取り出した。
人事部から拝借してきた履歴書だ。四角で囲われた中には整然とタイプされた字が並び、その横にその写真が貼ってあった。
ゆるいウェーヴの入った肩までのストレートな茶髪に、眉あたりで切りそろえられた前髪。黒の瞳。パーツは均等に顔に配置されている。
彼なら気に入りそうだ。向こうは気に入るかはわからないが。

何にしても厄介な事になりそうだ。

知らず零れ出たため息を残して、彼は再び廊下を歩き出した。


レンゾクサツジンジケン。
ヒガイシャハ9ニン、ミナワカイジョセイ。
イズレモカラダニ、2ツノアナノカミアトヲハッケンスー
 








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