オギの執務室の帰りに血液貯蔵室に寄って、カインの食糧を自宅へ運んで貰うように頼んで、それから自分の冷蔵庫の中身を補充するために買い物に出た。
(2時間・・・・)
テクテクとコンクリートの歩道を歩きながら、ルナは思考にくれる。
『君のことが、よほど気に入ったと見える』
オギが言ったことが、頭から離れない。
最初に釈放されるとき、彼はあの大虐殺について言っていた。寝床が欲しかっただけ、と。
だから、どんな凶悪犯と身構えていたけどカインはまったくそれっぽくなくて。
逆にその匂い立つような危険な空気や人を惑わせる瞳に、いつの間にか囚われてしまっている自分がいて。
(知らないことが・・・多い)
真実は、どうなのだろう?
ぼんやりと歩いていて、いつの間にか前からくる人影に気がつかなかった。

どんっ!

そのまま転びそうになるところを、相手の手が引っ張ってくれたので何とかふみとどまった。
「・・・す、すいません!」
慌てて相手の方に声をかける。そのまま握られていた手に気がついて、さらにスミマセン、と謝った。
「いえ、こちらこそ。だいじょうぶですか」
(うわ・・・)
そう微笑んだのはまだ16.7才くらいの青年だった。
宝石のアンバーにも似た薄茶色の瞳が少年を抜け出た年代とあってあどけなくて眩しい。端正な顔立ちに合わせたような短髪の黒髪がとても爽やかだ。パーカーにゆるジーンズといったシンプルな格好ながらも、一目見たら印象に残りそうなその顔がニコッと笑って言った。
「お姉さんが無事で何よりです」
抱えていた荷物をさして、
「荷物もね」
いたずらっぽく笑うところが何と言うかかわいらしくて、ルナはクスッと笑みを零した。
「そうね、ありがとう。ほんとゴメンなさい」
「お買い物ですか?」少年が不意にたずねた。
「ええ。君は?」
「ジェイド」
「え?」
青年が一指し指を自分にさして言った。
「僕ジェイド=ソブレーズって言います。これも何かの縁だし。お姉さん美人だから教えてあげる」
ませた子なぁとか思う時点で私年喰ってるな、と思う自分が情けない。あははっと苦笑しつつ、ありがとう、と言っておいた。彼―ジェイドは悪戯っこのような光を瞳に宿らせて笑う。
「僕今日何にもなくてフラフラしてただけだから。お姉さんみたいな美人にぶつかるなんてラッキーだったかな、逆に。ねえ、お買い物ついてっていいですか?荷物持ってあげる」
ちょっと強引だな、と思っていると彼は強引にほら、と自分から荷物をひったくってしまった。しょうがない、ここで喚いてどうなろう。ましてや年下相手に。彼は荷物を振り回しすぎずゆっくりと、振り子のようにして横を歩きだした。
「重くない?」
「大丈夫、僕こう見えて力あるんです」
へーきへーきと言って、彼―ジェイドは本当に軽々と持って見せた。そういえば大人一人軽々と引っ張ってたな。カワイイ顔して意外とやるわね。いいや自分が重いとかそんなんじゃないけど。
「仕事帰り?」
「ええ」
「当ててあげる。警察の人でしょ?」
「何で・・・」
びっくりしたルナを見て、ジェイドはふふふっと声をあげて笑った。
「実はお姉さんのトコ、歩道橋で見たから。あそこってサツジンの事件現場だったじゃん。スーツ着て色々見てたから、そうかなって。そんでたまたま今日また見かけたの」
「あ・・・・」
そういえば。
姿ははっきりしなかったけど、誰か見ていたと思った。
「君だったの」
「そう。そんで今日はたまたまぶつかっちゃった。これって運命感じない?」
キラキラとした眼差しでこちらを見つめる。なんてセリフを吐くんだ。純粋に言うからまた怖い。差し障りなく答えを返して笑いかけた。
「ありがとう。それで荷物まで持ってもらうにはちょっと申し訳なかったわ」
「いいえ。でもそれにしても量が少ない。お姉さん1人暮らし?」
「ええ」
カインの事は一般には伏せてあるからそんな軽々しくいえないので、黙っておく。
ジェイドはふうん、と呟いていた。
「彼氏いるんじゃないの?」
「いないわ」
「ふーん・・・・」
歩道橋に居たのだったらカインの事も見てたかもしれないし、介抱されるのも見ててもおかしくない。それでもすまして返すが、ニヤニヤとしながらこちらを見つめてくるのを見ると、怪しがっている、と分かる。
やがて駅の近くまでくると、ジェイドに此処でいいわ、と彼から荷物を受け取った。その途端いいのに・・・と二つの双眸がふて腐れたように伏せられる。そんな表情1つにもクスッと笑みが零れた。
「ぶつかっておいて言うのも何だけど、助かったわ。今日はありがとう。ジェイド」
「どういたしまして」
彼の薄茶の瞳がパッと持ち上がって輝いた。
「家から遠くなっちゃったんじゃない?大丈夫?」
「へーきへーき。ねえお姉さんの名前教えてください。聞くの忘れちゃった」
「ルナ。ルナ=コンジョウよ」
「じゃあルナさん、また会ってね」
「会えたらね。忙しいんだから」
バイバイと手を振って、ルナは駅のホームへとかけて行った。
「会えるよ・・・きっとね・・」
ジェイドがそう呟いたことにも、勿論気がつくことは無かった。

















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