「何故?」
「うん・・・だって、末裔を殺してそれで魔女の復讐として成り立つのかしら?魔女は嬰児を好むのよ。それならば大人ではなく、末裔の赤子を殺す方が魔女にとって、あるいは彼女たちの神にとって有益なのではないの?月の女神、魔女の女神は再生と死の女神なのでしょ?ならば目的の為には力を溜めた赤子がいいんじゃない?」
言われてはた、と気が付き、その場で目を丸くしてモガリを見つめた。そういえばそうだ。魔女達の復讐をしたいのなら、少しでも確実にそれを叶えたいのならその力が大きい方が良いだろう。少し考えて思いついた事を口にする。
「それはやはり昔みたいに赤子を手に入れるのが難しくなったからじゃない?出産時に死産のレベルも昔よりかなり減ったし、いちいち人売りに介入すれば足がつく。」
「でもない事じゃあないわ。いまだに人売りは世にはびこっているわけだし。足が付かない様にするなら大金掴ませるか、最悪その人売りを殺せばいいのよ。」
「うーん。そう言われればそうだけど・・・」
ふぅ、とため息をつき、ルナは今一度自分の中でごちゃごちゃになっている思考をまとめ直していくことにした。何故赤子を使わず末裔の大人を殺したのか。その末裔をターゲットにしたのはやはり、魔女狩りの報復なのだろうか。人差し指をこつん、と自分の頭に突き立てる。
「・・・何となく前からしっくりこない感じがこう・・・自分の中にあったのよ。今日貴方の意見を聞いてまたそれが増えたわ・・再思考する必要がありそう。モガリの考えも考慮してそっちの世界の方にも探り入れてもらう事にするわ。」
「そ、ならそうなさいな。また呪医の方は方々目途つけておくわ。でも当てにしないでよね。アタシホント当てなんてないんだから」
モガリはふん、と荒い息を吐いて右手を扇いだ。ルナはクスリと笑って先程の人差し指をそのまま彼に向って指す。
「いいわよ、貴方の事信用してるから。いざとなれば私がまた潜ってみるわ」
まあ、命がけだけれどね、と肩をすくめる。モガリはフルフルと首を横に振り、不意に立ちあがって座ったままのこちらをその長い腕で抱きしめた。ふわりとフレグランスの良い香りが漂い、その香りに鼻腔を支配される。
「お前を危ない目に合わせたりしねぇよ。分かってるだろう」
「!・・・・・・・・・・」
「どうした?」
全くこの男、天然なのか無意識なのか。急に真面目になるんだから。そんな綺麗な顔で不思議そうにこっちを見ないでほしい。抱きしめられたままで身動きが取れないでいると、モガリの長い金糸の髪がひと房はらりと肩に滑り落ちて頬に触れた。柔らかなその感触にまたびくりと身体が跳ね上がる。絶対今の顔は真っ赤に違いない。
「・・・・急に口調変えるのは止めてよ・・・びっくりしちゃう」
「あら、そう?アタシは好きな人の前だとボロが出ちゃうの。」
「はあ?」
フッと、耳元に息を吹きかけられてヒャッ!と耳を抑えて飛び上がったルナを、彼女から離れたモガリは楽しそうに見下ろして笑った。
「だって俺ルナのファンだもん。ルナは俺のアイドルだしぃ」
「恥ずかしいからそう戻らないでってば!」
「やだールナちゃん顔真っ赤にしちゃってかわいー!意識しちゃった?アタシのコト意識しちゃった?」
「モガリ!!」
この美人の男は全世界の女性のハートを根こそぎ攫って行きそうな悪戯を仕掛けた子供よろしくピュアな笑顔で自分の頬をツンツンとおもしろそうにつついていて、これが本当変人じゃなければなあ、と常々思うのだ。赤くなった顔をそむけながら、ルナはモガリにともかく!と声を張り上げて彼のテンションを遮った。
「貴方は呪医の方頼んだわよ!被害者がなにかしら魔術を掛けられて記憶を抜き取られているとしたら、何かしら書類も通りやすいでしょう。いなけりゃホントに私がまた探るから。危ない真似とかしないから。」
「ホントだろうな?まあその時は俺が手助けしてやるから安心しろ。これでもアタシ。やる時はやるのよー?」
「・・・分かった分かった。頼んだわよ。私は出直すわ。オンディーヌとの会話も、どうやら出来そうにないし。早いうちにまた来る事にする。」
えー、と駄々をこねているモガリの腕を振り払い、ルナは少々疲れきった状態でカタコンベを後にした。
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