オフィスに向かっている途中、またしても別の番号からの電話が入った。まったく今日は仕事をさせてくれない日らしい。
客人の多い事。
ため息をついて再びコールを取ると今度もまた画面が現れ、フォリ・ア・ドゥの顔が浮かびあがる。ヒラヒラと手を振っている彼をじと、っと見ながら、ルナは低い声で画面のドゥに悪態をつく。

「・・・今日は金髪野郎ディなの?」

は?何の事だよルナ。イキナリ訳分かんねえな。ま、そんなミステリアスな我が女王様、俺は大好きでたまんねぇが。

「ありがとう。それで、この電話は前に連絡した赤子の流通経路の変化についての報告だと願いたいんだけれど。」

ドゥは口元を手で隠しながらククク、と声を殺して笑うと、笑みを刻んだ口元で長い人差し指を左右に振りながら答えた。

俺らが命令を怠る訳ねぇじゃんか。女王様は1日で出来ると踏んでただろ?忠犬はそれなりにご機嫌伺いが得意だからな。調べたさ

「報告なさい、犬」

yes. sir。結果から申し上げますと、此処数カ月の赤子の流通はなかったよ。今年入ってからあんた等サツが頑張って縄張り守っていたせいか奴らも表立った事はしなかった・・・してないらしい。赤子は貴重だからな。慎重にもなる。

「そう、じゃあ最初の事件発生時からない、と見ていいかしら」

嗚呼。・・ちょ、テメェまた良いトコでこの野郎!・・やあ僕らのご主人様。・・・そう、僕らに二言はないよ

電話口でもがもがと何かを揉めるような口調の後に、先程とはまったく異なった声音と口調で彼は話し始め、綺麗な笑みを浮かべた。

「また・・・突然変わるのは止めてと、何回言っても聞かないのね」

口調、そして色を変えた彼の瞳からもう一人のトロアが出てきた事を知ったルナの表情は途端に重くなった。くるりと組んだ足を入れ替えたトロアが挑戦的な眼差しで画面の向こうからこちらを見据える。

「まあ、いいわ。貴方方が言うのならそうでしょう。これで選択肢のルートは一つ消せた訳だし。御苦労様。」

今回は報酬なしかい?

「ちょっとくらい負けてくれたっていいじゃない。」

僕らはいつだって口寂しいのさ。分かるだろ?おこぼれだって残さず拾って食べるのに

「キス魔ってことかしら」

全く冗談のきついご主人様だな。そのうち飢えて鎖食いちぎって襲っちゃうよ?

「また繋ぎ直すから大丈夫」

ニヤリと意地悪く、それでいてさも楽しそうに微笑むトロアに対抗するようにこちらも意地悪く笑って答えてみせた。ちえ、と唇を尖らせたトロアは、次にやれやれと首をすくめた後に、そうだ、と思いついた様に目を大きくした。

「何?」

そしてその美しい顔に氷の様な微笑を刻み、フォリ・ア・トロアは悪魔の様な囁きで画面越しに唇を開いたのだった。

アイツが、来ているらしいよ

クスクスクス・・・その言葉と笑い声と同時に切られた電話を、ルナはしばらく地面から拾う事が出来なかった。











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