「今日はご機嫌がよろしくないようですね」

ぼーっとしていたらしい。カードをシャッフルしていた氷月に突然声をかけられ、有夜はハッと顔を上げた。
その様子に、氷月はふぅとため息をつくと、手際よく整えたカードをトスンと軽い音を立ててテーブルに置いた。

「べっ・・・別に・・」

「カードの手が止まってらっしゃいました。いつもなら止めることなんて無いのに」

「・・・・・」

「何を・・・お考えです」

灰色(アッシュカラー)の瞳がこちらを射抜く。背けることが出来ないほど、強く、強く。
有夜は皮肉って笑ってみせた。

「貴女なら・・どんな人の心も見抜いてしまいそうなのに・・・」

「本当に見抜きたいものの心は見えません。本当に・・知りたいのに・・」

瞳に陰りが灯る。その色彩がとても苦しく切なく、全てが入り混じって美しかった。

「それとも・・」

「えっ?」

突然、彼の瞳がねめつけるな視線に様変わりする。

「ハーベット様のことをお考えですか」

「ちっ・・・・違います」

目線に圧倒されながらも否定する。
氷月は珍しく冷静さを失ってまくしたてて言った。

「本当に?初対面であれだけのアプローチをかけられても?あれだけの容姿で、あれだけの財家で、あれだけの知性をお持ちでも?」

「っ・・!見てたの!・・・」

「見てました。でなきゃあそこで助けられなかったですよ」

「・・・・・」

「あの人はあれだけの人だ、貴女はこれだけの人だ。好かない方が可笑しい位、完璧すぎる。俺は・・」

「氷月さ・・・」

「好きです」

唐突だった。

「好きなんです。15年前からずっと。ずっと」

「15年前・・・・」

「貴女は丁度此処にいらしてた時、俺は貴女を見ました。幼いながらに、貴女をかわいいと思いました。
でも貴女は父親のマリオネットだった・・哀しそうな目で、ギャンブルをやらされてました。俺は貴女を楽しませてあげたいと思った。でも貴女を見たのはそれきり・・・忘れられなかった・・・
だから俺はディーラーになりました。1度しか見たことの無い貴女にもう1度逢うためには、そのくらいしか思いつかなかったんです。」

「わ・・・たしは・・・」

彼は人差し指を口に当て、フルフルと首を横に振った。

「でも俺は逢えた。今貴女とこうしている。」

いつものように、ふわりと優しい笑みを浮かべる。

「今はそれだけでいい。それだけで。ただ俺の想いを知っていてほしかった。貴女の心が俺に向くまで、俺は待ちます。俺の中で・・・・貴女以外の女性は考えられないから」

濁って見えないその瞳の奥に情熱が宿る。
曖昧な色。だけど危険なほどに美しく、その中に有夜を溺れさせた。
顔が自分の意思とは無関係に紅潮する。心臓すらも同じことだった。
しばらく俯いた後、有夜は蚊の鳴くような声で必死に言葉を紡いだ。

「あの・・・」

「はい」



「・・・ありが・・・とう・・」



氷月はいつも以上に嬉しそうな笑顔で答えて言った。


「はい」











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