心臓がまだ火照るように熱い。 有夜はぼうっとしたままで歩いていた。 《好きです》 《俺は待ちます。俺の中で・・・・貴女以外の女性は考えられないから・・・》 何度も反すうする、氷月の言葉がそうさせているのかもしれない。 《私を・・・好きだ・・・なんて・・》 気恥ずかしいような、くすぐったいような、そんな感覚。 《でも、私は・・・?》 「レディ・アヤ」 突如声をかけられ、ぴたりと進む足が止まる。 「またお逢いしましたね」 「ミスター・ハーベット=イヴンヘイズ・・・」 邪気の無い笑みがこちらに向かってくる。 有夜は反射的に視線を鋭くした。 それに気がついたのか、ハーベットは微かな苦笑を滲ませる。 「そんなに警戒しないで下さいよ。とって喰おうって訳ではないのだから」 「念のためです」 「ガードが固い人だ」 ハーベットはにこりと笑った。 「でもあのディーラーにはあんな笑顔を見せるのに」 「ミスター氷月のこと・・?彼は私が此処に来てからお世話になっているだけで・・」 「それだけならあんな顔しない」 急にハーベットの笑顔が消える。 彼は持っていたチップをチャリチャリと鳴らしながら、徐々にこちらに迫ってくる。 「好きなんでしょ?アイツのこと」 「・・・貴女には・・関係ない」 「大アリなんだよ」 「え・・・?」 彼はチップを見たまま呟くように言葉を紡ぐ。 「彼は俺と同じ。知ってた?彼の母親は俺と同じ五大名家――沈丁花の賊臣〈ダフン・ディ・リベル〉≠フ1つ、青葉家の愛娘なんだよ。 周囲の反対を押し切って、彼女は当時このカジノで天才ディーラーとして名をはせた土城泉青と若くして結婚したんだ。だから彼は俺と同じ位置にいる。いや、もう俺を超えているのか―」 オレンジの瞳に赤みが差す。泣いているのだろうか・・・。 「俺はね、でも欲しいものは手に入れたい。それが強く、美しいものならなおさら俺を魅了する。貴女はまさにそんな俺の条件を満たすんだ」 いつの間にか壁に追い詰められ、ハーベットはトンと有夜の顔の横に手を置いた。 急にハーベットの顔が近づく。 「逢ったのが二度目でも関係ない。貴女を見た瞬間からそんなものは無くなってしまった。俺は貴女が好きだ」 人々を魅了するオレンジ。 世界に第一幕を下ろす、憂愁の色。 それは人を求める、寂しくも美しい色だった。 「アヤ。俺の心をさらった貴女を、今度は俺が貰い受ける」 |