その夕暮れは、昼間の光においても美しく輝いていた。
ハーベットはけだるそうに輝くオレンジ色の瞳を呼んでいた本から背けた。
鮮やかな眼差し。そわそわと吹く風は身体をくすぐって心地よい。
傍らの三本足のテーブルには、自分の好む赤み混じりのオレンジの薔薇がほのかな香りを漂わせて鼻腔をくすぐった。
読書にはもってこいだと窓際に揺り椅子と本を引っ張り出してみたものの、しばらくして気が逸れてしまった。
パタンと本を閉じ、すこーんと抜けた青空を仰ぎ見る。

《アヤ・・・・》

あの闇を思わせる瞳と髪。
悲哀めいて美しい美貌。その悲哀を持っていても耐えない強さの輝き。

「・・・・・・・・欲しいよね」

思わず口をついた。

と――――

「何が?」

予想しなかった答えが背後で聞こえた。
ハーベットははっとしてその方向に顔を向けると、扉の方に彼と同じようなオレンジの瞳がある。
それを見て彼は、はあと気の抜けたような声を吐き出した。

「なんだパピーか」

「その呼び方はやめい」

がくと肩を落とすその男を、ハーベットは意地悪く笑ってやった。

アストレイ=イヴンヘイズ。
言わずと知れたイヴンヘイズ家第52代当主。
そしてハーベットの父である。
父は扉の傍らにあったイスを持ち、彼の傍まで引っ張ってきて座った。

「で、何が欲しいの」

彼は足を組むと、身体を椅子に預けてハーベットを見やった。

「何が」

「さっき言ってたじゃん。欲しいって」

「ああ」

ギィコ。

ハーベットは父から視線を外すと、再び青い空を見上げた。

「強いモノ」

「強いモノ?」

「そ」

「ふぅん」

どこか強い光を宿す息子に、彼はにやりと笑ってその横顔を見つめる。

「昨日のカジノ、どうだったの」

ハーベットは身体を起こし、父を真正面から捉えてニヤリと意地悪く笑う。

「・・・いい感じ♪」

「・・・・・・・・強いんだ、それは」

「3人。欲しいものはただ1つだけだ」

「そっか。・・・・俺も久々にキョウセイに逢いたいな」

カタンと椅子から立ち上がり、思い切り背を伸ばす。

「キョウセイってば変わんないしなー。相変わらずかっこいーんだろーなー」

「変な妄想膨らませるくらいなら逢ってくりゃいーじゃんか。全く・・・」

「一晩中付き合ってもらおー♪んー楽しい夜になりそうだ♪」

そのまま楽しそうに去っていく父―アストレイ=イヴンヘイズをハーベットは呆れ返って見送っていた。

「あの変なクセ・・・・何とかなんないのかな――つぅかよく俺生まれたよな・・・」

そして、絶対あの親父のようになるまいと固く誓った。









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