どうすればいいのだろう。

 ハーベット=イヴンヘイズ。
 彼はあんなにも激しいものを持っていたとは、知る由も無かった。
あんなにも大きく、激しく、揺るぐ事のないその自分の内をぶつけてきた。
あの毎日のように送られてきた花は、彼の心そのものだったのだ。

薔薇、チューリップ、撫子、アンスリウム、ルピナス・・・・

有夜はひどく困惑していた。動揺かもしれなかった。
あの後、身体がガクガクと壊れたように震え、止まらなくなっていた。思わず自分の身体を抱きしめた。
それから毎日、眠れぬ夜が続いた。身体は震え続けた。時に自分の奇声で目覚めることもあった。
侍女から薬を貰い、押さえつけるように眠りに落ちた。
その夢の中でいつも見て、オレンジ色の瞳が激しく揺れる。自分に己の中の思いを何度も何度もぶつけてくる。

その中で垣間見た――――あの灰色の瞳。


そのままでいい。今は、そのままで・・・

思い出すその声に、心は軽くなった。
目が覚めると、いつも涙の後が顔に残っていた。
侍女は心配そうに水を持ってきては声をかけた。
逢いたい、と思った。それは強くなった。
ハーベットからあんなに熱烈に迫られても、贈られた花を見ても、心は翻してあの瞳を求めている自分がいた。
ひどい人間だ、と思った。まるで悪魔のようだと。でもどうしようもなくなっていた。
胸が苦しくて仕方なかった。想えば想うほど苦しみは増し、涙は止まらなくなった。



逢いたい、逢いたい、逢いたい・・






「有夜様」

ようやく落ち着きを取り戻した有夜に、侍女がそうっと触るように声をかけてくる。
乱れた髪のままゆっくりと顔だけを彼女に向ける。彼女はこれ以上に無いくらいの悲劇的な面持ちでこちらを見つめていった。

「ラジエック様から・・・お許しが出ました。明晩より・・・カジノへ行っても良いとのことです・・・・でも・・・・大丈夫ですか?・・・お体は・・」

有夜はショールを羽織ると、軽く空を仰いで呟いた。

「大丈夫よ・・・」

「最近はあまりお眠りになられていないようですし・・お食事も・・・」

「大丈夫よ」

もう一度、今度ははっきりと言った。彼女は軽く身を強張らせたようだった。
「ラジェックが行けと言ったのでしょう。なら、私は行かなければならないの。それが賭事師・・・私の宿命よ」

「有夜様・・・・」

彼女はまた悲痛な面持ちでこちらを見やった。
〈止めて・・・・そんな目で見ないで・・・〉

そんな目で見られるほど、自分はできた人間ではないのよ――――。

自分は彼―――ラジエックを理由にして形の良い方法であの瞳に逢おうとしているに過ぎない。
逢うために、形の良い理由が欲しかった。何でもいい、それなりの体のいい理由が。
こんなぼろぼろになった自分を、見て哀れんで欲しくは無い。
貴方に逢いたくて、なんて、言えたもんじゃない。
人形に仕立て上げられた自分には、飾り立てた綺麗な理由と言う外見が欲しかった。

ただ、それだけの理由。くだらないワガママ。



それでもいい、何でもいい。
あの人に逢いたかった。











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