その場所は、美しいですか。
 

「今年も・・・来たよ」
森はあの日と変らず、木の葉をカサカサと揺らして答えた。


ザァアアッ!!!・・・・・・


一陣の風が冷たく激しく身体にぶつかって去っていく。
彼女が土に帰った場所。それはあの川の傍の、大きな杉の木の傍。
見れば今は小さな芽が一つ、顔をのぞかせていた。
墓標にそっと花を置く。この時期に相応しい紫陽花の花。


「誕生日、おめでとう・・・」
結局言えはしなかったこの言葉を、この日にだけは言ってあげようと決めた。

ポツ・・・・
唇に突如、冷たい感触が落ちる。
僕は思わず顔を上げ、空を見上げた。
「雨か・・・・」
じょじょに量が増えていく雨水を、両手を広げ、静かに静かに受け入れた。
傘は持ってきていなかったから。
「怒られるかな・・・?」
ふと独りごちて、苦笑する。



ねえ今なら君にも分かるだろう?
傘越しの霞んだ景色より
瞳に映し 身体に受ける
この景色の美しさを。



僕の受ける雨は見えるかい?
僕が見惚れる月光は見えるかい?
澄んだ儚さを抱いた
何よりも何よりも美しいこの景色を
今そこで見ることは出来ている?


再び地面の小さな芽に目を向ける。
緑の芽は雨露を帯び、一層青々として映った。
「・・・・・」

この芽はやがて、大きな木となり命を支え、守っていくだろう。
限られた命を持った彼女の想い、その分まで。
大きく、大きく。






空に居る、紫陽花色の君








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