彼女のまとった色は 穢れない無垢の色  寂しい寂しい  出会いの色
    大きなビー玉のような、真っ黒い瞳。
彼女は笑い返すと、再び外に視線を戻した。
僕は敢えて何も言わず、ただ黙って彼女と同じように窓の外に目をやった。
雨が天井でパチパチと弾けて音を立てている以外、何の音も聞こえなかった。


「木はね」
突然、不意をついて彼女はゆっくりと語り始めた。
「大きな木だと、地中の水を吸い上げる音が聞こえるんだって」
「なんかどっかで聞いたことはある」
「実際に試したことはない」
チラッとこちらを一瞥する。
「うん」
「私はここに来てからそれらしい木を見つけたから、聴診器で聴いてみたんだけど」
「うん」
「不思議な音。コオーッ・・・・・って。水脈の流れってこんな音なのかなって思った」
「イメージは何となく分かる」
「言葉では言い尽くせないかな。激しくて、静かで、どこか優しくて・・・」
目の前のガラス越しに見える、大木とは似ても似つかない細い木を見つめる。
彼女の声が優しい音となり、耳に響く。
「ああ、命の音だなあって。とてつもなく美しく感じてしまったわ。心が、サー―・・・って洗われるようで・・・」
ふとまた彼女の言葉が途切れ、静けさが染み入るように身体に進入してくる。
「・・・・・・・・同時にとても、羨ましくなった・・・どうしようもなく・・・」
「何故・・・・」
そっと彼女を盗み見ると、彼女は外を見ながら、痛いくらいの哀しそうな顔をしていた。
「彼らは少しでも長く生きようと、枯れないようにたくさんたくさん地中の水を吸い上げ、太陽の光を浴びて大きく空に伸びていく・・・それは確かに・・この地球の均衡を保っているから・・ところが私ときたらどう・・?今までこの日を目安に生きていただけ・・そしてこの身は何の影響も及ぼさないし、やがて消えても何の支障も無く地球は回るわ・・」
彼女は自分を柔らかな激しさで罵った。痛いほど批難した。
それはどんな慰みも癒しも即座に拒否して跳ね返す。僕はそれを何となく知っていた。
自分への罵倒が今の彼女の均衡を保っているのだ。自分への批難が、彼女の気を紛らわすのだ。



彼女の痛みは 自分自身の 限られたその命 それは誰よりも誰よりも 激しくて 切ない痛み


「ねえ」
僕は優しく、彼女に笑いかけた。
「聴かせて」






彼女がまとうのは、哀しい出会いの色



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