カオスの哀しみが、私を私にする。私の哀しみは、彼の彼たる部分を埋めていくらしい。
哀しみをウレシイと感じてしまう。それは罪なのかもしれない。まあ、罪じゃないとは誰しも言えないだろうとは思うのだが。
カオスと逢うのはほぼ気まぐれだった。
アドも電番も交換していたので、電話をしたいと思えば出来たし、メールだって出来た。
ただ私たちは交流と干渉をはき違えそうで怖かったのかもしれない。
特にメールは滅多にしなかった。電話が掛かってきて欲しいと願えば、カオスはかけて来てくれる。少なくとも私はそう信じていた。





声が、聴きたかった。






その日も私はそう願って、窓ガラス越しの夜の曇り空を見ていた。
案の定、着信音が緩やかに眠るように流れる。私は常にオルゴールだった。
引きずるように寄せて、フタをあける。
「今夜も空を見ているの」
唐突に緩やかな声が耳朶を穿った。カオスはいつもこうだ。唐突に、自分が思ったままをそのまま口に乗せる。私は力なく笑って答えた。
「何処で見てるの?ストーカー?」
「人聞きの悪い」
カオスは苦笑もまじえて声のトーンを落とした。
「サヤは月の出ない日は俺に逢いたくなるって知ってるから。そうでしょ?」
そういえばそうかもしれない。叶わないな、と私は笑って言った。
「そういえばね、カオス」
「なあに、サヤ」
「カオスと話をする日は切らなくなったよ」
「それは嬉しいな。よくやった」
「でもね、カオスと話し終るとものすごく寂しくなって、ダメ。どうしても自分に見返りを求めちゃう」
「そっか・・」
「カオスのせいじゃないの。私がいけないから・・ね」
「じゃあ今度は話し終わっても寂しくさせないように努力しよう。メールもいつでもしていいよ。返すのは遅いけれど、きっと返す。だからサヤも見返りを求めないように努力しよう。いいね?」
「・・うん、分かった。」
カオスの話は他愛無い。
今日は何を食べて美味しかっただの、何処で何を買っただの、今日はサヤが寂しいって思うかなと思っただの。
それでいい。それで良かった。
特別な言葉は私を傷つけた。


カオスはまた新しい色を感じたらしい。


「サヤが寂しいと思う色」



そんなの覚えられても恥ずかしいよ。
うん、分かってるよ。
でも俺は知りたいんだ。
そうしたらきっとサヤは寂しいと思わなくなるかもしれないだろう。
そっか。・・・そっか。・・・ありがとうね。
ありがとう。
カオスは、礼を言うのはこっちの方だよ、と言い、
ありがとうと、同じ単語を繰り返した。




ありがとう、サヤ。





礼を言うのは、こっちの方なのに。
電話を切ってから、膝を抱えて嗚咽を漏らして泣いた。
泣くのはホントに久しぶりだと思いながら泣き続けて眠った。
もう寂しくはなくなるかもしれない。
泣けるならもう苦しくはないかもしれない。
カオスがいつでも私の心を考えてくれているなら、寂しくはなくなるかもしれない。

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