とはいえ帰ってから、と言うものの実は2人は一緒に住んでいる事は誰にも言っていない。
学校側にバレて面倒な事になるのも嫌なので二人別々で帰っているのだが、紅の方がいつも文句を言ってくるのはどうでもいい。
帰ってリビングに行くと、もう既に紅が携帯をいじって怒り心頭な勢いで連打しているのが見えた。


まーた喧嘩してる…

こちらからも見ても明らかに分かるその光景に真紅は呆れかえって見つめ、それから自室に戻って鞄を置き、
それから携帯を抱えてリビングに戻って紅の向かい側のソファに腰掛けた。

そのサイトにアクセスし、パスコードを入れてログインする。
すると案の定びっしりと文字が画面上に並んでいた。ああ…今度こそ本気で呆れかえる。ホントにこいつら変わらねえ。
トントン、と文字を打ちこみ、彼らの間に割り込む為に送信する。


『こらこら、そこら辺にしておきなさい。こんばんは、M。ここにはいるんでしょ?』

しばらくして別の人物のコメントがパッと画面上に浮かびあがる。

『おやおや…これはこれはkの相方の。お久しゅう。相変わらずでしょう? すみませんね』

『いいえ、そちらこそ相方はお元気そうね』


画面の向こうから深いため息が聞こえてきそうだ、と真紅は思った。


『ええ。ごらんの通り息の根を一回止めても良い位息災ですよ。それともいっぺん二人とも止めますか?
 え、結構? すみません。それで、貴女がここに来たのは今朝の事件の詳細でしょう』

『そう。時間が経てば新しい情報が入ると思ったんだけど、何かある?』


思った事を文字にして託せば、相手方はしばらく間を置いてーそれから今まで紅とバリバリの口喧嘩をかましていた1人がおずおずといった風で文字が浮かんだ。


『特にはないよ。…今朝の事件が7日前。その日が満月。
まー…月の出ている日が吸血タイプには丁度いいんじゃないか。出てくるとしたら次の満月の日だろ。まだ十分に時間はある』

『そう。なら備えも出来るわね。それじゃあ現場に行った方が早いかな』

『何かを掴めるとは限りませんが、何もしないよりはマシでしょうね。私達の様な男連れで行くよりはkと貴女の方が行きやすい場所ではありますし』

『ありがとう。後、吸血タイプについてこれまでに出ている情報はないかしら。どんな古いものでもいい、無いよりマシ程度の奴で』


しばらく画面が沈黙した後に、パパッ、と画像や文字がいっぺんに画面に並んだ。


『古い時期だとそれこそ彼らが吸血鬼、血吸い鬼として呼ばれていた時代になる。若い女、あるいは若い男を狙い、その血を欲して夜に襲いかかる。
西洋では血を吸われたものはその眷属になるって言ってるけど、それも正しい情報なのか定かじゃない。
ホントだとしたらかなりヤバいから気をつけろ。最近もちょくちょく出現してるらしいから、本当に気まぐれで人間の世界に来るんだな』

『それが奴らでしょ、彼らにしてみればー邪鬼の事だけどー私達人間なんて都合のいい餌よ。だって面白い位に負のオーラを撒き散らすんだもの、そうでしょ』

『ええ。まあ、兎に角吸血タイプには血を吸われない様に。Kもそうですが、特に貴女が気を付けて。
鬼が鬼の血を吸っても力は変わらない…まあ媒介にしている人間の力と、その鬼自身の力によりますが。
だが貴女はマズイ。貴女の力は名前の通り、強い方なんですから。血を欲するタイプと相性は抜群なんですよ』

『気をつける、ありがとうM。何か情報が入ればまた連絡を頂戴…Kでもいいけど』

『いいえ、貴女に会う都合がつくんです、貴女に連絡しますよ、私のS』


あら、と思わず声が漏れた瞬間、目の前の紅がおい! と叫んで顔を上げた。
画面上ではもう相手はログアウトしてしまったらしく、紅の喧嘩相手の罵倒が書き込まれ、終わっていた。


「ったく相棒が相棒ならその相手もだな、胸くそわりぃ! 隙あらば人様の相棒口説きやがって!」

「あの人はいつもの事じゃない」


そう言うと紅は目の前に置かれたローテーブルをバン! と力いっぱい引っぱたくと同時に立ちあがってこちらを睨みつけた。


「だいたい真紅も真紅だ! あんな奴の言葉にデレやがって!」

「デレやがってって何よ、いいじゃない女の子は弱いんだから」

「俺だっていつも言ってるじゃねえか!」

「言ってた?」


はぐらかすと、紅はああもう! と悔しそうにかぶりを振って真紅の両肩を掴むと、しっかりと自分の目の前で固定した。必然的に赤銅色の瞳が目の前でかち合う。


「何度だって言うぞ、良く聴け」

「はあ」


跳ねた黒髪が彼が首を振る度になびく。赤銅色の瞳がじれったそうに見つめ、口ごもってからゆっくりと口を開いた。


「お前は…お、俺の…」

「俺の?」


じい、と見つめ返すと、今度は言葉に詰まった紅がそのまま顔を真っ赤にして固まってしまった。
紅? もう一度声をかけると、紅はハッ、と我に返り、あわあわと慌てた様にうろたえた。


「お…俺の相棒に決まってんだろ!」

「今更何言ってんのアンタは。その通りだけど」


そのまま掴まれていた手を離すと、紅は顔を染めたままこちらを上目づかいに見上げていた。
全くこういう所が情けない。そうは思っても肝心な事は口にしないでおいた。


「紅、このまま現場に行ってみよう。そう遠い所じゃないし、直ぐに返って来れるわ」


その手を繋いで引くと、紅はお、おう…とどこか名残惜しそうな顔をしていた。




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