カツカツカツ。
乱暴に靴の音を響かせてしばらく黙って廊下を歩いて、止まる。誰もいないことが幸いだった。
「・・・・・・・・・・・・っふ・・・」
何でか涙が止まらない。
零れ落ちそうになる嗚咽を何とか抑えた袖口に吸い込ませて、再び暗い廊下を歩きはじめる。
能力者はもう一つの意味で厄介だ。
人の思いが知れるせいか、感受性や感情移入しやすい。その点、あふれ出た感情はいとも簡単に暴発する。決壊したダムのように。だから訓練してセーブできるようになったのに、まるで逆戻りしている。
―カインの前でだけ。
そう思う度に愛しい。そう思う度に哀しくなる。

私を生かすのも壊すのも、いつの間にかカインになってしまっていると、知る度に。泣きたくなる。

能力者で無ければよかった。
(ううん・・・)
やああって自分の呟きを心の中でそっと否定する。頭を上げた。
まっすぐな目、闇のような気配を思い出す。
彼は確信を持って自分に報告する予定だったのだ。彼はそういう性格だ。それがどこか人を信じられない所からも来ているのだろうということも、何となく察知していたのに。そんなこと、自分が1番今まで共にしていて分かっていたはずなのに。
嗚呼。
耐え切れずに、窓の外に視線を向ける。変わらない街並み。きらめくネオン。欲望や羨望の街。
―嫌だったのは、カインの言葉じゃない。
今の私自身だ。醜くて心までめちゃくちゃになったバカな女。さっきのだって言いがかりにも程がある。
でも。
言われたくなかった。
言って欲しかった。
能力者はオイシイ、餌みたいになんて。
私はヴァンパイアを好きになってしまった、人間の女だ・・。
そしてそんな私は、彼の相棒なんだ。
いくら人間とヴァンパイアといえ、相棒だ。隠し事は嫌だって分かってるでしょう。どうして。どうして。
疑問だらけの頭は答えを導き出せそうにない。
嗚呼―。
かぶりを振る。いくら考えても浮かぶのは一つだった。

(貴方には、私など相応しくないー)

今の私は、私情を挟みすぎたただの一般人に成り下がっている。

















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