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「Danse Macabre(ダンス・マカブル)だ・・・」


目の前に広がるのは一面のステンドグラスだ。
美しく色鮮やかで人々の目を思わず奪ってしまうそれには、骸骨が描かれている。
その骸骨が、さまざまな人々の手を引いている場面。
骸骨のおどろおどろしさとステンドグラスの美しさが相反して、それでも尚引きつけてやまないのは気のせいではないだろう。
カインがその窓辺に静かに近づいていった。

「旧世紀の・・・本物ではないな・・・新世紀に入ってから作られたようだ。古い事は古いが、そんな極端な古さじゃないな。おそらくヤツはこれを意識したか・・・・」

そっと、彼が触れる。

キィン・・・

耳鳴りのような小さな音がした。
それにびっくりしたのか、カインはハハッ、と軽く笑った。

「すごいぞルナ。此処の教誨は新しいにしても結界・・・対異人種のシールドが張られている」

「でもカイン入ったじゃない」

「そうか?何か引っかかったとは思ったが」

ハハハッ、と笑って窓を小突くカインを見て、思わずため息を零してしまった。

-結界には気づいていた、訳ね。

自分もステンドグラスの壁に近づいてみる。

「気がついたか」
「え?」

カインの唇が音を出さずに動く。

−血が、ついている。

見上げる。目をこらしてみても、肉眼で確認は出来ない。
眉をひそめて再びカインを見つめた。

「under(アンダー)、下だ」

冷静に返されて、今度は下を見る。あった。まぁこれはこれは。



色に目をこらしてご覧。
その意味が分かったら、僕のコトも少しは分かる


「色・・・色・・・何なの?」

苦虫をつぶしたような顔でルナが呟くと、カインが苦笑いしながらこちらを見やる。

「若造が言いたい事は、多分」

カインがステンドグラスから離れ、地面に膝をついて血を調べ始める。
字を削らずに周囲に散った血痕を爪で削り取って舐めて、顔をしかめた。「完全にパッサパサだ」

「中世の色の考え方、と俺は見ている」
「色の、考え方」

「そう。十五世紀に発刊された「色彩の紋章」という書物がある。
先ほど、色が語られるようになったのは十二世紀からと言ったが、はっきりと文章化されたものが出たのはこの書物だといわれている。
これが中世の色に関する本としては1番はっきりと残っているものなのだ」

「・・・うん」

「その中では、まず色という枠があるとする」

「うん」

カインが両手で幅を取り、強調するようにその手を振る。

「ここの両端に、まず『白』と『黒』がある。そして、その中間に『赤』がある。赤と白の間に『黄緑色』『黄色』、赤と黒の間に『パープル』『緑』がある。
この他の色はまたココから派生する、とされている。その中間を決めるのは熱さと冷たさ、湿り気と乾きだ。湿り気を帯びれば黒に近づき、冷たくなるほどに白となる、という考え方だ。
この法則・・・白と黒、そして中間の赤を知る、と言うのは、俗に「バーリンとケイの法則」とも言われるようになったのは極最近・・・だな。
それを中世の人間が扱っていたというのも」

「御託はいいわ。それでこの若造さんの大好きな「赤」の意味は何?」

薄ら笑いを浮かべるカインに眉を寄せ、荒っぽく問い詰める。
カインはクスリ、と笑いを1つ零すと、ゆっくりと立ち上がった。

「そう急がずとも・・・まあいい。その時代・・中世赤はもっとも高貴で美しい色とされていた。
美しい色。気高い色。よく紋章に使われたりしたのは、騎士達の名誉の血を流す意味も含めていたから。
色の美しさは受け継がれ、高位の権力者達がこれを身にまとうようになった。
彼らは国王の葬儀でもそれを脱ぐ事はなかった・・・何故か分かるか?」

にこりとした顔のまま問いかけるカインにただ黙って首を振る。
それを見ても表情を変えず、彼は話を続けた。

「国王が亡き者になったとしても、国は永久に栄えるように・・・という願いを込めていたから、だ。
護符なのだ、様は。
赤は権威の象徴であると共に、お守りの意味も持っていた。また、赤は止血・魔よけにもきくとされていた。 例えば宝石の効能ってあるだろう。ルビーは出血をとめ、戦勝に導き、権力の座に着かせる・・とか。
同じ色で同じものを打ち消そうといういわば「同色療法」ともいう」

「何にしても、赤は名誉のために流さねばならぬものであると同時に、止めなければならなかったもの、ということ」

「・・・・・・だから、血を流して殺人を見せびらかせたの・・・?ますますわからない」

しかめっ面の自分をなだめるようにカインが微笑みかけた。

「赤の意味合いは少なくとも・・・そのままではないかと思う。最も高貴で、美しい。同時に名誉にも犠牲にも成り得る、血の色。問題は」

区切って、上を見上げる。つられるようにして同じ姿勢を取ってはみたものの、そのさきにあるのはステンドグラスの鮮やかさと骸骨=「死」。


その死に連れ去られるのを恐れる人々の顔・・・だった。






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