ヴァンパイア。
紅い血の匂いと色をまとい、呪われた命を永久に闇と共に生きる人間の願望と不条理を備え持った者。
太古よりそれは宗教概念から外れたとはいえ尚、人知れず息づいてその土地に根をはり、脈々と伝えられてきたのである。
―吉田 八岑/「吸血鬼」

「まあ人間の慣習や宗教とともに生きてきたということが大きいか。実際した人物がもとだったり、あるいは書物であったり。実際の人間の方がこうしてみると怖い。 戦争の見せしめの為に捕虜を串刺しにしたり、己の欲求の為に処女の血を求めて殺人を繰り返したり。見つけたときはおぞましいだけではすまなかったそうだからな」

そう言うとその男−妙齢の独特の雰囲気を漂わせながらもどこか抜けた感じの、白衣に身を包んだ男はそう言って笑った。ルナは軽くため息をついて男を見やった。

署内化学班特種捜査研究所―近年現われている新種の研究を対象にした研究所である。
ニュー・カテゴリをいち早く理解しその能力をどれだけ引き出せるかが彼らの使命であるというが、実際はただの実験室に過ぎない。ルナ自身もかつてここのお世話になった事があるが、居てみてそう思った。みんな新種をモルモットの様にしか思っていない。
その中で唯一話の通じたこのドクター…レイ=トプレアガリアの元へは、こうしてたまに顔を出している。性格は嫌味なほど嫌な人種には相違ないけども。時々データ取らせろとか言うし。

「古来からの在る儀式では生贄を用意して踊りや祈りを捧げた後に祭司が首をはね、そこから滴り落ちた血が大地へ吸われたら豊穣になるとか、血を自分の身体に塗りたくったりそれを飲んだりして力を得るとか、そいういう受け入れがたい事実を他国がどう解釈したかによってやっぱり変わってくるよな。ヒャヒャヒャ、人間ってグロィねえ。それがでも当たり前だったんだぜ。なあルナ?」

「……もういいわ」

「なんだよつれねーな。代わりに血ィ採らせろよ」

「なにヴァンパイアみたいな事言ってんのよ」

「ヴァンピーは血ィ啜るんだろ。俺は血のデータくれって言ってんだ」

「……帰るわ」

真剣に言うところが何とも化学者っぽいと思う。否化学者なんだけども。ガタンと音を立てて椅子から立ち上がり、コポコポと音のする試験管を見つめた。
アレは何を作るつもりなんだろうと思いを馳せているとレイがじっとこちらを見ているのに気がつく。

「てか何でまた急にヴァンピーの情報なんか聞きたがった? 初めてじゃねえか」

「……」

「捜査機密、かぁ?」

「……そんなとこ」

「ヴァンピーの男なら注意しとけよ−。ヒャハァ!」

ギイイと音のする研究所の扉を力の限り引っ張って、彼に背を向けて手を振った。








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