<黒い瞳 情熱的な瞳
燃える様な美しい瞳
なんと私はお前を愛している事か お前を恐れている事か
私は悪い時にお前と出逢ってしまった・・・・・
だが私は悲しくはない みじめでもない
この運命は私には惨めなのだ
神が与えたもうたすべてのよきものは
全てその黒い瞳にくれてやった>
(wikipediaより一部抜粋)
「ロマ(ジプシー)の女性に恋焦がれた男の苦悩と劣情、ね。・・・・」
デスクのPCで検索した歌詞を見て、ポツリ呟く。
キシリ。
デスクとデスクチェアにかかった負荷に思わず顔を上げれば、うわ、不機嫌そうな顔。
まるでPC画面を射殺すかのような勢いで睨みつけている。
昨日からずっとこうだ。
「もう機嫌直したら」
「・・・・・・・」
「私はもう大丈夫だから」
鉄仮面のように表情を固めてしまった彼は、口数すら減ってしまった訳で。
とりあえず、苦笑いをしてみる。
正直困っていた。
そのまま肩に肘を置いていたカインは、やがて無言のままこちらの顎を奪う。
反動でデスクチェアのローラーがキィィ、と軋んで回った。
怒りを昇華するかのような、自分を慰めるかのようなキスだった。
「かい・・・」
合間に呟いた呼びかけが果たして届いたのかどうかは分からないが、それでも怒りは収まった様だ。
唇を離されて再度見つめた顔は、痛ましいほど切なげだった。
「護るとか誓っておきながら・・・俺はまた傷つけた・・・」
「大丈夫」
「俺は・・・また傷つけるかもしれない・・・」
「カインが無事ならそれでいい」
そういって笑えば、今度は抱きしめられた。腕の中に入れられた途端、カインの匂いが鼻腔をくすぐった。
―安心するのは、決して気のせいではない。
自分が言った事は事実だった。カインが無事であるなら自分など。自虐的な思いが今の自分にはある。
もともとそのために自分がこの人外な悪魔と組まされたのは、百も承知なコトだった。
最初から上層部は自分をカインへの『生贄』にしたのだ。
自分達の地位の保身と安全のために。
この組織はその昔からそう成り立っている。入る時には上司には逆らわないという誓いまでさせられるのだ。
それはココが『行政』と名の付いた時代から慣習化された、忌まわしき一つでもあった。
まあその策略にはまってしまった自分も自分だけれど。
「進めよう。後もう少しよ、近いわ」
「・・・・・・ああ」
―カインがイラついていたのには二つ、理由があった。
一つは、あの時、教誨の現場に最初に着いた時、死体は何も持ってはいなかった。
告解室から戻ってみれば、持っていなかった死体がオルゴールとタロットを持たされていた。
ステンドグラスに書かれた文字は時間が経過していたから、被害者を殺した時に書いたものと断定された。
つまり。
犯人はわざわざ現場に戻って来て、被害者にあの遺留品を持たせたことになる。
自分達を、見ていたことになるのだ。自分の気配を年長者であるカインに悟られずに。
長きを生きているカインにとって、その気配を察する事が出来なかったのはプライドと誇りを傷つけられたに等しい物だった。
それからずっと、そのことを気にしている。
もう一つは、多分。
(私を・・・標的にされてしまったこと)
自惚れている訳ではないが、そうだろうと思っている。
置かれたタロットはよく市販されているものだ。『月』の意味は『不安』。タロットだけでは意味の方に向いていただろう。
もう一つの、オルゴール『黒い瞳』。
現在この事件に関わり、黒い瞳を持つ、『月』。
能力者には黒い瞳の者も多少いるが、「月」の名を持つ人間は自分のみ。
決定打はオルゴールに書かれていた血文字だった。
IT'S THE LAST YOU RUNA.
『最後は君だよ、ルナ』
それを見た途端カインは怒りに身を任せ、なおかつオルゴールが黒い瞳だと聞いて暴走寸前になった。ルナ自身が彼に血を飲ませた後、カインはようやく我に返ったらしい。
飲んだ事すらぼんやりとした覚えていないとか。それにちょっと怒りを感じたが、その後対面したその顔を見てまぁいいやと思ってしまった。あんまりにも痛々しい表情なんだもの。
それでも後処理が大変だったらしい。オギは何度もそう呟いていた。不意に視界に入ってきた真新しいまっ白な左腕の包帯をさする。
「痛むか」
その様子を見ていたカインが眉を寄せて左腕に触れた。
ううん、と首を振って、大丈夫だと心で言ってやる。
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