祭壇に置かれていたのは、金色に輝く精巧な作りの懐中時計だった。
真新しくはないものの、よく手入れされていて、綺麗なものだった。
証拠品には違いない、コートのポケットにつっ込んでいた手袋を取り出してはめ、そっと手にとってみる。チャリ・・・・と静かに鎖が音をたてた。
よく手入れされた、しかしながら古い物には違いなかった。ようやく聴きとれる針の啼く音、きらりと光る装飾。

「特に・・何もないかな・・・」


くるりと前、後ろとひっくり返してみるが特に変わったところはない。
カインがじっとこの懐中時計を見ているので、次にみせてやろうと手袋をはずしかけて。


ル・・・な・・・


「っ!!」


欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい君きみキミの血血血血が・・・「ああ・・ルナ」・・・ノイズ・・・じジジジジジジジ ・・・・ジジッ・・・・・「ぁぁ・・もうすぐだね・・・ルナ・・」・・祭壇の傍・・・懐中時計・・・「ねえ・・まだ血が足りない・・・君の血・・・待ってるね・・・あの場所で・・・」君の血を・・・・欲して・・・



<・・・・これは・・>


意識がぼんやりとそれをとらえはじめている。


<教・・誨・・・・>


海のような、意識に墜ちていく・・


(ルナッ!!!)


寸でで誰かに腕を引かれた感覚に、意識が急覚醒した。


ハッッ!


意識がこちらに戻ってくると、カインが自分の腕をつかんで、めずらしく焦燥の表情を浮かべていた。
そっと指を外すように離していくと、ようやく安堵の息をつく。
冷や汗が止まらない。呼吸が少しだけ乱れているのに今気がついた。呼吸していたのは自分なのに・・・
カインが自分の腕に残る指の痕を見つめながら、そっと摩る様に2本の指で行き来させながら、息をついた。

「・・・いつもより・・・意識が取り込まれていたから・・・悪い事をした・・・すまない」


「・・・取り込まれていた・・・自分でも気がつかなかった・・・最近こんな事なかったのに」


ぎりっ・・


いつの間にかこちらから奪っていた懐中時計の細い鎖を、カインは何の躊躇いもなく握りつぶした。本当ならは本体を潰したかったのだろうが。ルナは震える声でカインを見上げた。

「・・私を知っている。向こうは。何故?」


彼を見上げると、カインはその瞳を深い紫で色濃く染めている。紫色の神秘の炎は今、怒りの色を滲ませ、こちらを見下ろして押し殺したように声を絞り出した。


「何故もくそもあるか。俺が居るからだ。おれがルナ、お前のその神聖な赤を啜ったからだ。そして何よりもこの事件にお前が関わったからだ。まるで計算ずくだったかのような」

「計算づく・・・?どういう・・」
「神父!」

ルナが次の言葉を発する前に、彼は切り裂くような急いた声で、傍らの神父を呼んだ。はい!とびくりと震えた声がし、彼の影がルナの後ろに揺れる。震えているようだった。当たり前のように思う。

「場所を・・・例の教誨の場所を教えろ!早く!」

「ちょ・・カイン!」


「ひぃ!は・・は・・・い」


「それから」


「は・・・」


カインは神父に聞いた事に、ルナは今度こそ首をかしげる事となった。





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