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教誨の外に出て、気がつけばもう夜だった。それはすべてを呑みこむ闇の色だった。
カインは意味のない呼吸を一つ、一つと繰り返した。煮えくりかえりそうなマグマのような感情は何とか押しこめている。彼女はそれを望まないのだから。
(堪えるべきだ・・・)
少なくとも、今は。
彼女に触れてみろ。彼女の声に耳を傾けてみろ。彼女を視界に入れて穢してみろ。
殺してころして殺してバラシテ殺してずたずたに切り刻んで苛んでやる。
「カイン」
ルナがおそるおそるカインを呼ぶ。その背中が何か、怒りに満ちた空気をその身体に押さえつけているような気がしていた。案の定、答えはかえって来ない。l車に乗り込んでから、彼はずっとなにかこんな風に黙り込んだまま考えている。
「あの質問は意味があってのこと?昔の教誨の建設月なんて・・・」
「意味?」
カインは吐き捨てるようにその単語をオウム返しした。くるりとこちらを振り向く、その瞳は己を自嘲しているかのように。
「ルナ、貴女はまだ気がつかないのか?そんな訳がない」
「カイン・・・」
「ルナ、あいつに会った事があるな」
「あいつ・・・?」
あいつって・・・
「思い出せ、ルナ。・・・いや」
ふっと強張っていた表情が溶ける。そしてあさっての方向を向くなり、彼はひとりごとのように呟くのだった。
「じきに会えるのだから、もういいとしよう。行くぞ」
エンジンが狂ったように始動し始める。夜の教誨にはにおおよそ似つかわしくないその轟音を響かせ、車は走りだす。
「血ぬられた世界が、始まる・・・・」
そう呟いたのは、はたして自分だったのか、カインだったのか。
車の騒音にかき消されて、言葉は闇に流れて溶けていく。
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