「カイン!」
我に返ると彼の声を無視して無我夢中で駆け寄る。
腕の中で荒い息をつくカインの傷を調べる。出血の方はもう止まってはいるようだが、傷自体は今修復を始めているようだ。出血のせいかいつも以上に顔が青白い。
「くっ・・ルナ・・・来るなと・・」
息も絶え絶えになっているカインが苦しげにこちらを見上げる。
「そんな事言っているばあいじゃ・・」
「っ!!ばか!避けろ!!」
ドンッ!!
不意打ちで力で思い切り突き飛ばされ、教誨の入口まで飛んだ。思わず受け身を取って身構える。
「カイン!」
目の前でジェイドがカインにまたがった格好で、右腕を凶器にしたのだろう、カインの腹腔を貫いていた。
血がじくじくとカインの薄い腹から滲みだしている。その血がジェイドが貫く腕を染め、着ている衣服を染めた。それをじっくりと見やって、ジェイドは腹に空いている左手の人差し指を差し込み、血を浸らせてゆっくりと抜き出すと、したたるそれを真っ赤な舌で舐めとってクスリと笑った。
「500年牢獄暮らしで身体鈍ったんじゃないの?」
出てくる冷や汗もそのままに、青白い顔でカインが不敵に笑う。
「600年だ。ふん、お前こそ小さい身体でちょこまかとちょござい真似をするな」
「はっ!口だけは相変わらず達者じゃないか小僧」
恐ろしいくらいにジェイドの唇が歪み、声音が変わった。
そのまま右腕を更にねじりこませる。
「ぐっ・・・」
「このまま首に噛みついてやったっていいんだぞ?クク・・今なら容易いな?」
首筋に犬歯が触れるか触れないかの距離で、ジェイドが笑う。
「カイン!」
(血が・・止まらない)
遠くでルナの泣きそうな声がする。腹を貫かれたまま血が流れ続けて止まらない。自分の血がどんどんなくなっていくのが感覚で分かる。
不意にジェイドがルナの方に視線をやりにやり、と笑った。
「・・・奇遇にしても酷すぎる悲劇だよね、カイン。昔と同じように。同じような強い瞳の、月の女神の名の女に出逢い。そして焦がれ。また奪い合う。残酷にも程がある」
「顔まで似てるなんてさ・・・ホントに」
「・・・・かはっ・・いつだって俺たち闇の者を統べるのは月さ・・・だから崇拝し、畏怖し、そして・・愛する」
クス・・・
ジェイドが天使の様な笑顔を向ける。
「じゃあ、今度は俺がお前を絶望させてやろう。まず彼女の前でお前を一度殺し、そして彼女を殺す。気に入ってるから俺のモノにしてやるさ。そしてまたよみがえったら何度でもお前を彼女の前で殺してやろう。約束したろう、何兆年かけてお前を探し、何兆かけても殺してやろう・・」
「カイン!」
ググッ・・
右腕がねじ込まれる。痛みを堪えながら、カインは何とか自分を縫いとめている腕を掴んだ。
血が足りない・・
(今負けるわけには・・・いかない!)
「じゃあな」
ジェイドの氷の様な冷たい声が頭上に響いた。
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