「ルナッ!!!」


差しのべた手が後少しで届くのに。
ジェイドの身体が届く方が早いなんて。

(ルナっ・・・!)



祈る様に手を伸ばす。否、まさにその瞬間、俺は祈っていた。


あの子のために。
あのひとの、ために。


―時が、止まった様に感じた。




ガウウウウン!!!




一つの、銃声。




横を通り過ぎる小さな質量。火薬の匂い。その先。







「がっ・・・・・はああああああああああ!!!!!!」






叫んだのは、・・・・ジェイドだった。




残った左腕が肩ごと吹き飛んで、大量の血がシャワーの様に噴き出していく。

ジェイドの腕が飛んだ瞬間にルナの肩に手が触れ、無意識に引き寄せる。血が自分の肩にかかり、逃げる様に飛びずさった。彼の方を改めてみる。
端正な顔を鬼の形相のごとき有様に歪め、ただ一点を見つめているジェイドの視線の先を、二人で追っていた。



「この銃弾・・・きざまかああ!!!」



血を吐きだしながらジェイドが吠える。


―きさま?


「え・・・」


カツーンと。


教誨の入口に靴音が一つ、響き渡り。





「あーあ、なさけないな」




間の抜けたような声が、一つ。


カチリ、という音と消炎の匂い。カツン。カツン。カツン。




「あんたもあんただよ、そこの紫電の瞳の怪物。大事な女、見放すんじゃねえよ。おかげでお姫様が怪物の血ちょっと飲みこんじゃったぞ。まあ・・それは後で考えよ」




「貴方・・・は・・・」




かるく顔に血しぶきを浴びてしまったルナが、驚いて目を見開いている。





「ヴィオ・・・ヴィオ=クエイルード・・・」




前に会った服装とは違い、今のヴィオは黒い服に身を包み、片手に銀の銃を携えてブーツを鳴らしながら歩いてくる。その美しく荘厳な姿はまるで異界の者の姿を思わせた。
カインに手を貸してもらい、よろよろと立ちあがりながら、ルナは彼の姿を今一度視界に納めた。
黒の衣装はまるで神父の服を模しているかのようにゆったりとしていたが、インナーに着こんでいるものは身体のラインに沿うようなぴったりとした半そでトップス。その上から襟付きの裾の長いジャケット、というかコートを羽織って、その裾を優雅にたなびかせている。

やがてちかくに来たヴィオにカインはいち早く威嚇していたが、ルナはそれを無言で制し、彼を見上げた。

ヴィオがこちらを見てクスリと声をあげる。

「・・・・綺麗な顔が血だらけ・・」



大丈夫?そう言って頭をなでられた。
唖然となる。何故彼が?


「・・・ま、こういうことだよ。言ったでしょ?また会うよって・・さってと・・」


改めてジェイドの方を見やる。もう力がないのか、両手を失った身体は床にはいつくばる様に倒れていた。
息も荒く、肌は血を失ったせいか青白い。
それでも瞳の鋭さは失われず、煌煌とこちらを見つめていた。
ヴィオの顔を視界に納めると獣のごとく歯をむいた。

「貴様!なぜここに居る!」


「何故?愚問だろうジェイド?お前がいるからだよ」

氷の様な瞳で見降ろし、冷たく言い放つヴィオ。

「しばらく見ないと思ったら女の連続殺人なんかおっぱじめて。まああいつがカインをひっぱりだしてきたから何かあるかと見張ってたらルナがいた。・・・ぴんときたよ。あいつがルナをエサにお前らでチェスをしようって腹さ」


「あいつ・・?」



うつろに呟いた言葉をヴィオが目ざとく拾って、くるりと振り向きざまにこちらに笑いかける。


「君は知らなくていい事だよ、僕らの月。知らない方がいい」


「ヴィオ・・・貴方は何者なの・・」



ヴィオは困ったように苦笑し。
カインはじっとりとした眼差しで見つめている。
そして彼はふう、と一息つくと、仕方のない、と言った感じでがりがりと頭を掻きながらルナの前に進み出た。


「まいったな・・ルナにちょっかいだしすぎたかな。正体まで明かすつもりなかったんだけど」


「貴様・・・・」


「わかったよ」




降参、という風にしぶしぶと両手をあげてルナに向かって丁寧に腰を折ってお辞儀をする。



「俺もヴァンパイアだよ。まあそこの吸血鬼さんより格下ってことさ、小憎らしい事に。」









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