「格下・・?」



そう言ってちらりとカインを見やると、彼はふん、と鼻をならして彼を見返した。



「ヴァンパイア・ハンターが何を謙虚に」



「ぃ。さすが数世紀生きると違うね。それもばれちゃってんの?いいけどさあ・・・」



やれやれと両手を肩までもちあげて、ヴィオは首をすくめる。目を白黒させているルナを見てから、いつもの笑顔が燦然と輝いた。


「黙っててもしょうがないしゲロっちゃうけど、俺は7番目に生まれた片親の魔女の血統から生まれた半ヴァンパイア。まあそれで俺もその一つってわけ。まあ、それで宿命のようにヴァンパイアハンターに。俺だけじゃない世界中でね、そういうハンターはいる。といっても昔みたいに居たら殺ってくって事もなくて、監視役みたいなものを兼ねてる。俺はこの地区担当、みたいな。厄介者の多い地区だしねー」


「はあ・・・」


ころころと愉快そうにわらうヴィオをしり目にルナは呆れたような声で答えた。


「ま、もっと厄介なのがいるんだけどねぇ・・・」



ちらりとカインの方に意味ありげな視線を投げかける。ふん、とカインはその視線をいとも軽く扱って流した。まあそれはいいや、とため息を吐くと、ルナの頬についた血を指で拭い、舌先でそれを舐めとった後、不味そうに顔をしかめた。ああ、ともどかしそうにつぶやくと、ルナの頬を指でなぞる。


「あれの血はだめだなぁ。やっぱルナの方がいいなぁ・・いって!」


「したら貴様の命が無くなると思え」



いつの間にかカインがヴィオの手首をひねりあげている。ふう、とため息をついた。ヴァンパイアって常にこんなんなんだろうか。まあ血の渇望は本能だし仕方のないことだけれど、性格まで変わりモノなのかしら。ていうかなんでヴィオはカインを知っているの?昔からの中と言う訳・・・・なのかまではわからない。カインは私にそんな事読ませないし、ヴィオも・・読ませそうにはない。
ヴィオは親指で倒れてもがいているジェイドを指し、ふん、と息をもらす。


「ま、それはいいとして、アイツ要るんでしょ。お前の刑期をまがりなりにも減らす・・俺としては至極どうでもいいが」



「・・・戴いていく。三千年くらいは減るだろう」


今更だけど、カインの刑期ってどれくらいなんだろう。ふう、とため息をついて、手首切っちゃったし、どう手錠をかけようか、とヴィオに相談しているカインを見やる。
これでカインは帰っちゃう。あの白い地下牢へ。別れる時間は目の前にある。
ふう、と至極興味がなさそうにため息をついて、ヴィオは肩をすくめた。



「ま、拘束術かけても手無いし意味ないか、さっさと連行しちゃえば?」



「ああ・・・ルナ?」


「・・・っ!・・ええ」



ぼーっとしていた所へ声をかけられたので反応が遅くなり、声が上ずる。気がつかれてしまっただろうか。
すたすたとジェイドの方に歩いていくカインを追った。近くに来ると、ジェイドが射殺すような強い眼差しでこちらを睨み付けてくる。


「・・・ぐっ・・・きさまのような下賤の者に触れさせて・・・があああ!!」



バキイイイイ!!!



「うるさいよこの爺」



一言終わる前に傍らのヴィオが冷酷な瞳でジェイドを踏みつけた。バキバキと骨の砕ける音が響き渡ると同時にぐじゅぐじゅと修復の音、ジェイドの咆哮が混じり合って奇妙な不協和音を立てて響く。彼はそんな行為もやり慣れているから平気なのだろうが、自分は一応人間なのだから、そんな事不快なだけだ。たまりかねて声を上げる。


「・・ヴィオ・・やめて」



ヴィオはジェイドの肩をぐりぐりと踏みつけながらきょとんとした顔でこちらを見る。その顔は悪い事が分からない子供の様に純朴そのものだ。踏みつけていた足を上げて何もない場所に降ろすと、不思議そうにまたこちらを見つめた。



「どうして?・・・君を傷つける者はどうあっても滅ぼさなくちゃ。この爺は君を殺そうとしたのに?君は相変わらず優しいね月の女神。俺ならこんなのとっくに肉片にして塵に還してる・・・ああ」


ふ、と気がついたようにカインに目を向け、そしてまたルナへと向け、皮肉気に唇を釣り上げた。

「アイツの為、か。なんだろうね・・何だかカインも殺したくなってきた」


「止めてよ!」


「ルナ」


低く、諭す様な声が上から降りかかると同時に背後から抱きしめられ、引き寄せられた。
耳元に軽く息がかかってぞわりと背中が粟立つ。

「落ち着け・・・」


「っ!!!」

「さ、俺の月。連行といこうか」

そのまま足をすくわれ抱えあげられる。にっこりと笑顔で腕の中にいる自分を見下ろされて抵抗も出来ない。カインはそのまま顔を上げてヴィオに目で合図すると、ヴィオがやれやれと言って傍らに這い蹲るジェイドを抱えあげようとした。


―刹那。


(・・・・やれやれ、使えないのは・・・)


自分の頭の中に、この場所にはいない何者かの思念がパッと飛び込んできて反射的にびくんと身体が跳ね上がった。次の瞬間には口がカインを呼んでいた。



「っ!カイン!」



(モウイラナイ。)





パアアアアアアン!!



自分の叫びとほぼ同じくして、水風船を思い切り割ったような破裂音が辺りに響き渡る。次に液体が地面に叩きつけられるビチャァ!という音がする。顔を上げ、自分の目の前の光景に愕然とする。彼女の眼の前に見えるのは彼、緑色の瞳を持つ彼、ジェイドがその緑の瞳大きく開いたまま固まっている。何が起こったの?という風にその顔は唖然としたままだ。

「・・・・・・・・え?」









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