「ちい!!」
ヴィオが舌打ちをした時にはもう遅い。ジェイドの心臓ー正確にはあったであろう場所に大きな空洞が出来上がっていた。ジェイドは自分の胸を見下ろし、そしてまたこちらを見た瞬間、パキパキパキ・・・と彼の身体が石化してひび割れていく。
パキパキパキパキ・・・・
「しまった!後催眠か!」
「違うわ!誰かが・・・」
叫ぶカインに誰かが彼の心臓を潰した・・・と答えようとしたが、後半が声にならずに消えた。背中がさっきから寒い。誰かが見ている。今も、こうして、どこかで。寒気が走り、背中が針で刺されるような感覚に包まれる。誰かに見られている時にいつもこうなる。その恐怖、見えない圧力に声が出ない。
目の前でジェイドがだんだんと石化して割れていく。パリン、パリンと欠片になっていく彼を見つめるしかできない。どうしてこうなってしまったのだろう。彼はどこで歯車を違えてしまったのだろう。13人も人を殺し、そして最後が自分となるなんて。
「アルテ・・・ミス・・・」
かすれてか細くなってしまった声を聞きとって、ルナは目の前にゆっくりと歩み寄る。彼はもう大半が灰になって、風がさらさらと運び去っていく。
「君に・・・逢いたかった・・・もう・・・一度・・・・ねえ・・・あるて・・・みす・・・もう一度・・・この目を見て・・・」
つぅ、と彼の緑の眼尻に涙が伝う。その感情に胸が痛む。彼は純粋に彼女を愛していたのだろう。その純粋さが凶器だったのだ。だがこうなってしまっては・・せめてもの安らぎを与えるには・・・・少し考えて、そっと唇を動かした。
「綺麗なグリーンの瞳ね」
パキパキパキ・・・・・・・・
彼は、笑った。
「アルテミス・・・もう一度・・・逢えた・・・僕の・・月(ルナ)」
パキイイイイン!
最期の彼は、笑顔だった。
***************
「・・・・・・・」
しばらくその場に沈黙が広がっていた。自分の中から思考もしばらくストップしていた。どうして。なんで。それに、直前で聞こえていたあの思考の声、あれは一体・・・・何とか戻ってきた思考をフルに動かしていると、カインがそっと肩に手をかけてきた。
「つらいだろうが、ルナの仕事が残っている。風に攫われないうちに灰を回収しよう」
気がつけば目尻に涙が溜まっているのに気がつく。泣きたくてないた訳でもないのに涙が零れ、頬を濡らした。カインが親指の腹でそっとその筋を拭いとり、そのまま手のひらを頬に滑らせる。生ぬるい彼の温度がじんわりと浸透して心を目覚めさせる。彼は何でこんなにやさしい温度があるのだろう。
そう思ったらまた涙が零れた。
手元のバッグをあさり、円筒状のガラスケースと採取器を取り出し、傍にある灰の山から灰を採取する。軽くてサラサラして、今まで生きていた者とは思えない。ある程度を取り、きゅ、とフタをしてバッグにしまい込む。そのままゆっくりと立ち上がり、カインの横に立つ。心配そうな顔がこちらを見下ろした。
「・・・・・大丈夫か」
「ルナ、平気?」
左右から心配する声が聞こえてきて、反応のように頭を上下に振った。酷く片頭痛がする。かなり荒っぽく能力を使ってしまったのだろう。もっと丁寧に使えばこんなに酷くはならないのに。思考を無理に働かそうとして、またしてもズキン、と痛みが走る。
「っ・・・・・」
無意識に左手を痛む箇所に添える。カインが精神に訴えてきていた。心配をする気配が漂っている。顔を上げると、心配そうに眉をしかめているカインと、傍で悔しそうに唇を噛みしめているヴィオがいた。
「・・・・・・・・・ごめんなさい、私がもっと早く・・・」
「・・・・・・・・・・・・俺がいけない。ジェイドを結局追い詰めていたのは俺だ。あれは純粋過ぎた。緑を何故固執していたのか分かった。あれは彼の瞳。アルテミスが褒めた彼への唯一の愛情。俺といるルナに・・・・それを見つけて欲しかったんだろう。今度こそ、傍に、と」
「・・・・・」
「・・・・・ルナ、もういいだろう。カイン、それよりルナを休ませてやれ、能力者が荒っぽい力の使い方したら本来昏倒モンだ。それにルナがジェイドの血を飲んだ事も厄介だぞ。死んだにせよ血は命。力がどんな反応するかわかんねえだろ。異種研連れていけよ」
チッ、と舌打ちの音が聞こえ、肩を引き寄せられる。ヴィオがカインをものすごい顔で睨みつけている。さっきからカインに対しての殺気がものすごい。しばらくそうしてカインを睨みつけていて、ふと諦めたようにそっぽを向いた。
「カイン。そのうち奪ってやるからお前は牢屋から指くわえて見てろよ」
「ヴィオ」
「じゃあね」
くるりとヴィオが背中を向けたと思った瞬間には、もう彼の姿はなかった。
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