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コツ―ン、コツ―ン。
地下部屋に続くこの廊下はヒールの音があいかわらず良く響く。
胸が痛い。
哀しい感情を悟られたくなくて、ルナはうつむいた顔をあげられずにいた。
手はしっかりと彼と繋いで、離さないようにしていたが、やはり哀しいばかりだ。
カインの方も察してくれているのか、何も問いかけてはこない。
ありがたい様な、哀しい様な、複雑な気分だった。
「さ、ルナ。ここでいいと言うまで待つんだよ」
部屋の前でカインとオギがまず最初に入った。ショックの軽減を図ってくれているのか、とも考えて止めた。
今だって茫然と立ちつくしたままだ。
声がしてオギがどこからか姿を見せる。最新式の自動扉の方を指され、言われるがままそちらに足を向ける。
一人で行っていい、とオギが後ろから声をかけてくる。
「会う機会も減る・・君にはまた別の任務があるし、彼は別の任務に・・・未定だが、ついてもらって刑期を軽減していく事になる」
だから、・・・とつまったオギの言葉に、うつむいたまま首を縦に振って意思表示をした。
入るのに少しためらった後、意を決して前に進む。
シュン!
ゆっくりと目をあげれば、彼の居る白い部屋が見えた。はじめて会った時の壁も椅子も白い部屋。
そしていつの間にか着替えた白いYシャツ、リラックスパンツの彼。はじめて会った時と同じ、あの格好だった。
天使の様な、悪魔の彼。
人類最古の殺人者の名を持つ彼。
ふうわりと、カインが笑みを浮かべた。
哀しそうな笑み。
「ルナ」
低い声が、呼ぶ。
よろめく様に近付いて手を伸ばすが、もう触れる事が出来ない。透明な、厚い壁が邪魔をしている。そう理解した瞬間涙がボロボロこぼれた。声が通る通気口に顔を寄せ、透明な壁に互いの手のひらを合わせる。
「カイン」
「また、逢える」
「カイン」
カインが壁越しに自分の手を指で辿る。ああ、でも、と吐息まじりの低音が言った。
「もっと、もっと、触れておけばよかった」
哀しい声。伝わらない温度が辿る音。
「今はただ、君に触れたい」
深い深淵に呑まれた紫電がしっかりとこちらを見つめる。後悔だけが、残る。そう言った。
否。いつでも後悔ばかりだ、と。
「カイン」
壁越しに、唇を合わせる。彼が、伝わってこない。あの冷たさも何も。こぼれた涙が止まらない。
「そんな顔をしないで」
その声に余計哀しくなって涙が次から次へとあふれてくる。哀しくなる・・・なんてレベルじゃない。
引き裂かれて壊れそうだ。
紫の瞳が揺らぐ。宝石の様にきらきらして、私の存在を映す。
「愛し、てる」
声にならない声を何とか絞り出して紡いだその言葉に、それでもカインは嬉しそうに笑った。本当にうれしそうに笑うから、涙が余計に出た。薄い唇が囁くように言う。
「愛している。俺の、俺だけの月(ルナ)」
「笑ってくれ、ルナ。お前だけが光だ。お前だけが・・・俺の月だ」
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