ぴ、ぴ、ぴ。


馴染みのある嫌な音が耳元に響く。
自分の心臓の音を電子が代わって音を発するこの音。


ルナゆっくりと瞼を開いた。


白い天井、電子音の響く音。仰々しい機械の数々、そして―あらゆる処から収集した鉱石。ルビー、ラピスラズリ、アメシスト。病院かと勘違いしそうになるが、それを見てあそこだと理解した。頭を振って顔にかかった髪の毛を落とし、顔を左右に動かすと、左に白衣の人間の姿が見えた。
もぞり、と動くと気配に気がついてこちらを振り向く。
彼はその端正な顔に似つかわしくないベッタリとした笑みを張りつけて笑った。


「起きたかぁ」


どこか足を引きずる様にして歩くのは彼―レイの特徴だ。そのまま起き上がろうと身体を起こしかけて、左手首に点滴が刺さっているのが見えた。全く、と煩わしかったので外そうとしたらレイに馬鹿外すなと、ギロリと睨まれた。


「だって・・・これ」


手首を持ち上げてレイに見せると、彼はだぁから、とイラついた様子で左手に持ったグラスをこちらに押し付ける。中はミネラルウォーターだ。遠慮せず一目散に口を付けた。ごくごくとミネラルウォーターを飲み干すルナを見ながら、レイは酷く苦々しい顔で話しかけた。


「おめぇ、最近精神管理してねぇだろ。命令書出してもらってもことごとくスル―しやがって・・・クエイルードのガキがお前運んで来たんだ。居残るってぇ言い張ったけど帰ってもらった。その方が都合が良いだろう?・・・・・ソレは栄養剤だよ。おめぇの嫌いなオクスリじゃねぇよ。安心しろ餓鬼んちょ」


「餓鬼じゃない」


抵抗するように腕を持ち上げると、レイは何言ってんだとその腕を抑えつけた。無理やり押さえつけると思いきやその力は意外と優しかった。


「おめぇに言うのもあれだけどさぁ、ヴァンパイアの血ィ取ったからって実際のところ良い事ばっかじゃねぇんだよな。能力は制御できんだろうけど、感情は制御しづらくなってんじゃねぇか?」


じぃっとこちらを覗き込んでくる。ねっとりとした視線がかちあって、視界を染めた。まとわりつく視線、その視線は真っ直ぐにこちらに向き、全てを見透かす様だ。絞り出す声で反抗するしかなかった。

「・・・・・そんなことない」


「ったく、素直じゃねえ」


ガシガシと頭を掻きながら立ち上がったレイは、そのまま薬品棚に手をかけてこちらを一瞥する。


「おめぇ、あんま感情が制御できねぇと大嫌いなオクスリ使わしてもらうかんな。今はまだ良いけど、あんま頭痛続くとどうなっかわかんねぇぞ。」


「・・・・分かったわよ」


「・・・まあ、おりこうさんで優秀な可愛い俺のモルモットちゃんに免じてしばらくはクスリ使わないでやるよ。だがあんま無理して我慢するなよ。クスリは悪いもんじゃねえんだからな」


がしがしと今度はその大きな手で頭を撫でまわされた。くそう、なんか今日は優しい。ちょっと困るなあ、悪態つけないし。レイは手元から空になったグラスをかっさらうと傍らのデスクにコトン、と置き、自分の鉱石コレクションに手を伸ばした。いとおしむ様にその手でそっと撫で、ゴツゴツした山を辿る。その様子はとても珍しく、マッドサイエンティストとは思えない。
彼は石を撫でながら彼はこちらを食い入るように見つめて言った。


「おい、ちゃんと聞きわけてるかぁ」


「聞いてるわよ爺」


「ったく・・・」


呆れかえっていてもその苦笑いはいつものレイだ。彼はそのままさもだるい、と言った風に口を開いた。


「その点滴終わったら抜いてやるからそしたら帰っていいぞ。まあ後小一時間ってとこかねえ。」

「くっそ爺・・・」


悪態をついて睨み上げてみるも、レイはただ悪戯の成功した子供の様にヒャッヒャッヒャ!と憎たらしく笑ってルナをそのままベッドに押し付けた。















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