長い時間の後にやっと車に戻ってきたルナの姿を見て、車の中で互いに険悪な空気を作りだしていた二人はやっとホッと安堵の息を零した。
バタン、とドアの閉まる音がして助手席に彼女が乗り込むと、カインはルナを静かに呼んだ。

「終わったのか」

彼女は黙って頷くと、ばさりと手に持っていた紙の束をカインに手渡した。先程までは持っていなかったから、おそらくその異種とやらに貰ったのだろう。ちらりと視線を移し、文字が流れるままに追っていくと、その事実にカインのアメシストが大きく見開いていった。

「・・・・これは」

「被害者たちの血筋を辿ると、ほとんどの被害者が異端審問官の末裔だと言う事が分かったそうよ。・・・私もまだ全て読んだ訳ではないから今ここで詳しくは言えないわ、取りあえず帰りましょう」
「・・・・大丈夫か、ルナ。顔色が悪い」

「何でもないわ。兎に角オフィスへ。カイン」

たしなめる様に再度呼ばれ、カインは心の中で深くため息をつく。何をしたか分からないが、ともかくまたこの人は無茶をしてきたのだ。それでも彼女は今言いたくなさそうな空気を発している。その場は黙ってやり過ごす事にし、カインは車のエンジンを入れ直した。




****************


「つまり、最初の事件の被害者の母マルガリータ・ブラントには被害者を憎む理由はあり、そして殺す理由もあったということか。まあでもそれだけでは捕まえられないが」

オフィスのソファに座り、手にした資料をばさりと目の前のローデスクに置きながらカインがおもむろに口を開いた。ルナは手にしたマグをデスクに置くと彼を見、無言のままに首を縦に降ろした。

「それから二件目の被害者アルノー=グランデェリの密通相手のhigh schoolgirlは実は魔女の家系。相容れない者の苦しみは耐えがたいものだったでしょう。ウブで可愛くてセクシーな女の子に言葉で好き好き言っても彼自身はその奥底で何かが叫んでいたはず。

でも本人たちはそんな事知らないし、要らなかった。彼を愛するセクシーな少女はただ一心に彼を愛していただけだし、彼はその愛に堪えられず組織から首を切られた。」

「アルノーを殺したのはそのウブでセクシーなハイスクールガールだっていうの?相容れない家系だったから?バカバカしいよ。」

ヴィオがやれやれと呆れた顔で首をすくめる。こればっかりは当然の反応だろう。ルナは気にもせずに次へ進めた。

「3人目、ベルナール=トゥールーズは異端審問官の家系、でもルナルド=シオンは魔女の家系、4人目は同じく異端審問官の家系、その発見者のジャンキーはびっくり、ハーフ人狼じゃない。皆何かしら異端審問官に関わっていた。でも確証的なものじゃない、これだけは頭に入れておかなければ。」

「それにしてもするする埃が出てくるものだな。まるで吐きだす為に溜めこんでいたみたいだ。・・・おかしくはないか」

カインが足を組んだまま背筋を伸ばし、腿に肘をついて身を乗り出す。確かにそれはその通りだ。その違和感は少なからず感じていた。

「そうね。こうなる事が分かっていたから前もって用意していたみたいに。だからまだ確信していないわ。私の本能が叫んでいる」

目を閉じて心を無にし、手を胸に当てる。自分の中でざわり、と何かが音を立てて蠢く。この感覚がまだ、と叫んでいる。まだ、あるわ。深く深く、入り組んだ所にー










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