その羅列された文字を見た時、真っ先に思ったのは「気持ち悪さ」だった。

事件の概要と言えば至極簡単な物だ。
一ヶ月前、ある一定の場所である人間の失踪が起こる。そしてしばらくしてから彼は塩漬けになって発見された。
それから身体の一部が未だに見つかっていない。

「これだと…もう身体の一部は見つからない、と言った方が良いだろうな…」

カインはため息と共にそう呟いた。その理由は皆まで言うまい。目を開いて再びPCに目を滑らせる。
塩漬けで発見された彼は面向きは普通の人間だったらしい。恐ろしく普通にこの世に生を受け、普通に成長した。
ただ死に方が異常だった、それだけだ。しかしそれが異質なのだ。そこに何かあるからこそ彼は異常な死に方をしたのだ。
『たまたま』なんて、ましてや『偶然』だなんてこのような死に方をする者にはありはしない。
しかしPCの字面だけではその内面までは無論、探れない。カインはその死に方を見て真っ先にある絵画を思い浮かべていた。

「肉体と奇跡の関連…」

塩漬けにされた人間が聖人の御手によって復活するあの絵画。あれは当時の宗教の論争に大きな局面を与えただけではない。
当時の時代において肉食は血抜きをし、とにかくよく塩漬けをすれば不浄とはされなかった、という現実を隠しているのだ。
すなわちこれもそれに関連したーもしくは何らかの意図を持って模したものではないだろうか? 

「しかし、それはあくまで家禽類の話だ」

たとえばそれは一部の地域の話だが―当時一般的であった豚であった。
狩猟によって囚われた小禽はあるいは調理され、生きたまま食卓に出される、あるいは時に生きたままパイに包んで出された。
まるでマザーグースの歌の様に。

「人である事はない、人である事など」

なぜ、人を。

顎を手に乗せて考え込む。まず思い浮かぶのは、『力を得る』為だ。その塊の中に宿る『力』を人間は重要視し、それを食べる事で『得る』事を考えた。
例えば神の儀式。前回の魔女の事件で調べた事であったが、魔女達は幼子や囚人を食べる事で、またその血を取り入れる事によって魔力を取りこんだりしていた。
幼子を特に好んだのは、その小さな器の中に莫大な生命力が溢れていた為、とされている。

そしてそれは悪に染まった人間に言えた話でもない。

生贄、という供物を捧げるのは、生贄が聖なるものとして捉えられていたからに他ならない。
今にして思えばそれは吐き気すら覚えるものだが、当時はさも当たり前の事であって、嫌悪すべき事ではなかった、
むしろ生贄は誇らしい事ですらあった。最も、自分にとって吐き気がするのは今も昔も変わりはしないが。

(否…)

ややあって、カインは誰も居なくなった室内でそっとかぶりを振った。肉を取りこむ事、血を取りこむ事、それはどちらも変わりない事ではないか。
血を飲む事で自分達は『生き永らえる』。血が無くては生きてはゆけぬ。それが己の世界の常だ。それが肉に変わった所で気持ち悪さなぞ変わりはしないのだ。

「……兎に角、調べるべきはこの男が消えた所だろうか。果たして外に出してくれるのか、それは分からないが…」

アンナがどれだけ自分を自由に動き回らせてくれるかは分からないが、取りあえず動ける範囲で出来るだけの情報を集める事が重要になってくるだろう。
タン、と指先でキーボードを叩くと、次に彼が消えたであろう場所と遺体が発見された場所、そしてその現場写真がパパッと現れた。
消えた場所は…遺体の発見場所と同じ?

「港だと…?」






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